遺言執行者が不動産を売るとき 権限と代金分配の確認

遺言に執行者として自分の名前があっても、遺産の不動産を自由に売れるわけではありません。売って代金を分ける指示なのか、不動産そのものを特定の人へ渡す指示なのかを、まず読み分けます。
換価して分配する内容なら、売却権限、登記の準備、代金から控除する費用、受取人への報告がつながります。一つの不動産を子2人へ分配する仮定で、資料と数字を整理しましょう。
- 換価の指示と単に相続させる指示を読み分ける
- 執行者の行為と所有権の登記名義を区別する
- 売却後の清算と税務資料を受取人へ引き継ぐ
遺言の換価指示と執行者の指定を並べて読む

民法1012条は、遺言の内容を実現するために必要な行為を遺言執行者の権限としています。財産を売って代金を渡す指示があれば、対象、受取人、割合、控除する費用と、執行者を指定した条項を対応させます。
ここでは「対象の土地建物を売却し、所定費用控除後の代金を2人の子へ各2分の1ずつ渡す」と明記された遺言を仮定します。売却の指示と実行する人が、遺言全文から確認できる前提です。
| 遺言の内容 | 執行者が先に確認すること |
|---|---|
| 売却して所定の相手へ代金を分配 | 対象不動産、売却指示、受取人と割合、費用条項 |
| 土地建物を長女に相続させる | 不動産を長女へ承継させる内容。執行者への自由な売却指示とは違う |
| 執行者の指定だけがある | 個々の遺言内容を実現するのに必要な権限を調べる |
特定財産を相続させる遺言については、1014条が執行者による対抗要件の具備等を定めています。その権限があることと、取得する人の希望に反して別の人へ売る権限を得ることを同一視しません。遺言が曖昧なら、売却の前に解釈を弁護士等へ相談します。
所有の登記名義と売買を行う権限を分ける

執行者として売買手続きをする場合も、その不動産を執行者個人へ相続・贈与するわけではありません。契約書の売主表示と、登記に記録される所有者・申請する立場を、遺言と現在の登記事項から照合します。
相続人がいて売却代金を分配する典型的な清算型の遺言では、まず相続人名義への相続登記を準備し、その後に買主への売買による登記を行う形が用いられます。遺言執行者が手続きを行うことだけを理由に、途中で執行者自身を所有者名義へ入れるものではありません。
遺言全文と取得者から必要な登記の順序を確定する
誰がどの権利を取得するか、相続人がいるか、全部包括遺贈等に当たるかで検討すべき内容は変わります。あらゆる換価遺言に同じ名義の経由を当てはめず、遺言の原本、死亡時の登記、戸籍等、執行者の就任や選任を示す資料を司法書士へ一緒に示します。
不動産登記法は共同申請の原則と、相続や相続人への遺贈の単独申請等を分けています。署名者や必要な本人確認を決済日に初めて調べるのでなく、売買契約の前に、申請の種類・名義・権限を確定させてください。
控除する費用と分配額を清算書へ分ける

売却代金が入ったら、遺言の費用条項と支払根拠から控除額を確認します。民法1021条の執行費用の負担と、1018条の報酬の定めも区別します。執行者が希望した金額を、根拠なく報酬として差し引くことはできません。
売価3,000万円、領収書等で確認した実費120万円、遺言に別途定めがあり今回控除する報酬30万円という仮定を置きます。他の支出がなく、税金はこの例で控除しない前提です。
| 清算書の項目 | 仮定の金額 | 根拠 |
|---|---|---|
| 売却代金 | 3000万円 | 売買契約・決済入金 |
| 今回控除する実費 | 120万円 | 遺言の費用条項と支払資料 |
| 今回控除する報酬 | 30万円 | 遺言の報酬条項等 |
| 分配する残額 | 2850万円 | 3000−120−30 |
| 各2分の1の送金額 | 1425万円ずつ | 遺言の分配割合 |
これは資金の清算例であり、譲渡所得の計算ではありません。実費120万円や報酬30万円が、そのまま全額譲渡費用になるとは限りません。売るために直接かかった費用か、管理や執行の費用かを税務上は別に検討します。
建物の取得費も、親の購入代金の全額をそのまま使えるとは限りません。取得時の資料や償却の記録は、現金の清算書とは別に残して、税務担当へ渡します。
分配記録と税務資料を渡して未了事項を報告する

売買契約書、決済明細、費用と報酬の根拠、清算書、送金控えを対応させ、子2人へ同じ前提で説明します。手付金を先に受けた場合は、決済時の残金だけを売価とせず、合計した入金と一致させます。
売却の価格を選んだ経緯も、査定や仲介資料等で残します。安く売ったという不満が出たとき、執行者が売却できるという権限の説明だけでなく、どの条件を比較して契約したかを説明できるようにするためです。
相続税と売却による所得税は別の税金です。遺言の取得形態による課税の帰属、各人の申告、税を清算対象に含む条項の有無を税理士へ確認します。死亡後の売却所得を、父の生前分の準確定申告へ当然に入れるものではありません。
遺言執行者に就任しただけで、受取人の税務申告を代理する権限まで当然に得るわけでもありません。清算例では税金を差し引いていないことを各人へ明示し、納税資金や申告資料の受渡しを先に相談します。
最後は分配額だけでなく、保留金、未払い、登記や引渡しの完了、まだ確認している税務資料を報告します。未了の項目が残るときは、どの担当がいつ確認するかを記録し、売却代金をすべて送って終わりにしないようにします。
関連する基本事項は、遺言執行者の役割と手続き 就任通知から財産の引き渡しまでも参考にしてください。
契約や手元の資料をもとに相談する場合は、相続サポートの相談窓口をご覧ください。
よくある質問

遺言執行者に指定されればすべての不動産を売れますか
指定だけでは決まりません。遺言の換価指示と対象財産を読み、実現に必要な権限かを確認します。
売却するため一度執行者個人の名義にしますか
執行者が手続きをすることと所有権を取得することは別です。遺言の取得形態に合う登記を確認し、執行者個人への相続や贈与としません。
清算書で差し引く費用はすべて譲渡所得から引けますか
遺言に基づく資金の清算と税務の所得計算は別です。売却に直接必要な費用、執行費用、報酬等を分けて税務担当へ確認します。