敷金は相続税から引けるか 返還条件と家賃の精算を照合する

賃貸物件の入居者から預かっていた敷金は、死亡時に返す義務がある範囲について、相続税の課税価格から差し引く債務控除の対象になり得ます。税額から敷金を直接引く制度ではありません。
ただし、敷金台帳の預り額が、そのまま控除額になるとは限りません。敷引き、退去時の精算、家賃への充当、長期無利息の返還条件を分け、死亡時点の債務を確かめます。
- 敷金の現金残高と返還債務を別々に記録する
- 敷引きと家賃への充当を死亡時の資料で分ける
- 長期無利息では返還時期と評価額も確認する
預かった現金と返す義務を別々に把握する

敷金を別口座に残していなかった、すでに修繕や生活費へ使っていたという事情だけで、入居者へ返す義務が消えるわけではありません。死亡時に存在し、確実と認められる債務かを契約から確認します。
反対に、敷金相当の預金が残っていても、その預金自体を財産一覧から外す方法ではありません。現金預金は実際の残高を資産に計上し、返還債務は別の欄で扱います。残高から先に敷金を引き、さらに債務控除を行うと二重になります。
契約上の敷引きと既返還を控える
同じ「保証金」という名称でも、全額返還する契約、一定額を返さない契約、期間によって返還額が変わる契約があります。条項の有効性を含めて返還義務を確かめ、すでに返した額や精算済みの額を台帳へ反映します。
三件の敷金を死亡時の精算状況へ対応させる

次は死亡日にどこまで精算されていたかを見ます。下表は、死亡時の状況を説明する架空例です。返還対象の金額を先に整理しており、長期無利息などによる時価評価の調整前の候補額を示しています。
| 入居者等 | 死亡時までに確認した事実 | 返還対象額等の整理 |
|---|---|---|
| A 預り敷金30万円 | 返還不要6万円の有効な条項があるという仮定 | 返還対象24万円。控除額は返還条件も確認 |
| B 預り敷金20万円 | 死亡前に退去し、家賃5万円への充当が有効に精算済み | 返還残15万円。充当済み家賃を未収債権へ再計上しない |
| C 預り敷金20万円 | 居住中で家賃5万円が滞納。充当や精算は未確認 | 敷金20万円と未収家賃5万円を別欄で管理して判断を保留 |
Cで「いずれ家賃に使うはず」と5万円を敷金から差し引きながら、未収家賃もゼロにすると、死亡時の権利義務と合わなくなるおそれがあります。充当日、合意、精算書などから、どちらの権利がどこまで消えているかを確かめます。
見積中の原状回復費を確定債務と混ぜない
死亡後に取得した工事見積額も、敷金から機械的に引くものではありません。死亡時にどの返還義務が存在し、借主負担がどこまで決まっていたかを分けます。見積段階、借主と協議中、精算済みを同じ欄へ入れないようにしてください。
長期無利息の保証金は返還時期と現在価値も調べる

返還義務の額が分かっても、相続税で差し引く価額が必ずその額面と一致するとは限りません。長期間無利息で預かり、将来の一定日に返す契約では、返還までに享受する経済的利益の現在価値を考慮した裁決があります。
国税不服審判所の要旨集には、平成12年3月28日、平成19年4月26日の判断が掲載されています。一方、昭和57年6月14日の事例では、形式は長期無利息でも、保証金の利息と賃料の一部を実質的に相殺する事情から、そのような控除を相当としませんでした。
次の更新日を返還日と決めつけない
住宅の敷金で途中退去により返還する契約と、長期の定期借地で満了時にまとめて返す保証金では、条件が異なります。「無利息なら全部同率で割引」「更新が2年後だから必ず2年後返還」とは決められません。
過去の裁決で使われた年5%などを、現在の全契約の利率として流用しないことも大切です。返還期日、中途解約、賃料との関係を示し、必要な評価方法と期間・利率の根拠を税理士へ確認します。
取得者と返還債務の負担を申告明細までつなぐ

返還債務を誰が引き継ぎ負担するかは、物件の取得、賃貸人の地位、遺言や遺産分割の内容と合わせて確認します。金額だけを法定相続分で割り振って、実際に返す人の資料と食い違わせないようにします。
| 資料 | 記録する内容 |
|---|---|
| 賃貸借契約・更新合意 | 預り額、敷引き、返還時期、中途解約 |
| 通帳と敷金台帳 | 受領済みの額、返還済みの額、入居者との対応 |
| 精算書・充当資料 | 死亡前後の日付、家賃や原状回復費との関係 |
| 長期条件の評価資料 | 控除額と返還対象額が異なる場合の根拠 |
| 取得・負担の資料 | 物件を取得する人と債務を負担する人 |
管理会社が保有する金銭の帰属も確かめる
管理会社に敷金が保管されている場合も、会社にあるから相続とは無関係と決めないでください。借主に返す義務を誰が負い、所有者が管理会社にどのような返還請求権を持つかを、管理契約と賃貸借契約から調べます。
最後に、返還対象額、相続税上の評価額、負担者、不足資料を一つの表へまとめます。契約書が見つからない欄は未確認のまま担当と照会先を残し、台帳の数字だけで全件を確定しないようにしましょう。
相続の資料をそろえる際は、相続税の債務控除の対象一覧 借入金や未払金を差し引く条件も参考に、今回の判断と全体の申告準備をつなげてください。
ご家族の資料や未確認の点を整理して相談する際は、相続サポートの相談窓口をご覧ください。
よくある質問

敷金を生活費に使っていたら債務控除できませんか
使ったことだけで返還義務が消えるわけではありません。現金預金の実残高と、死亡時に存在する返還債務を別に確認します。
滞納家賃は敷金から自動的に引いて申告しますか
死亡時に充当や精算が済んでいるかを確認します。未収家賃と返還債務の両方から同じ金額を重ねて減らさないようにします。
長期無利息の保証金も全額を控除できますか
額面と控除額が一致するとは限りません。返還までの期間や賃料との関係によって現在価値を調整した裁決があり、契約条件を基に評価を検討します。