相続放棄と葬儀費用 遺産から払う前に確認する負担と単純承認

相続放棄を考えていても、親の葬儀を行うことはできます。ただし、葬儀社へ誰が支払うのかという契約の問題と、親の預金を使ってよいかという相続放棄の問題は別に確認する必要があります。
遺産から葬儀費用を払っても単純承認に当たらないとした裁判例はありますが、あらゆる支出が認められるわけではありません。支払いの原資、内容、金額、当時知っていた借金などを整理して判断します。
- 葬儀社への支払義務と相続した借金の違い
- 親の預金から支払う前に確認する内容と金額
- 支払い済みの場合の資料と相続放棄の期限
葬儀の契約上の支払義務は相続債務と分けて考える

葬儀費用は、通常、親が亡くなった後に葬儀を依頼することで生じます。生前に親が借りていたお金や未払債務と同じものとして扱わないことが出発点です。
葬儀社との契約者と相続人は同じとは限らない
見積書や申込書を確認し、誰が葬儀社へ依頼し、どの範囲の費用に合意したかを確かめます。喪主という呼び名だけで、対外的な支払義務や家族間の最終負担が全て決まるわけではありません。
家族の間で後から分担する予定でも、葬儀社への支払いをその合意で当然に変更できるとは限りません。依頼時に金額と支払者を確認しておきます。
相続放棄でも自分の契約の支払義務は残る
子が自分の名で葬儀を契約した場合、その契約上の支払義務は相続放棄でなくなるものではありません。相続放棄は親の権利義務を承継しないための制度であり、自分が新たに負った義務とは別です。
誰が最終的に費用を負担するかは、家族の合意や具体的事情による争いが生じることがあります。相続人だから必ず法定相続分で精算できる、と決めて支出しないでください。
遺産からの支払いは金額と内容を個別に確認する

親の預金を引き出して支払う行為には、相続財産の処分として単純承認が問題になる余地があります。葬儀だから例外、という一言で判断しないことが大切です。
相当な葬儀費用が許容された裁判例がある
社会通念上相当な範囲の葬儀費用等について、財産の処分に当たると断定せず放棄を認めた裁判例があります。葬儀の必要性だけでなく、遺産や債務の状況、支出の内容と金額などの事情が関わります。
一律に何万円までなら認められるという基準はありません。借金を把握した後に債権者を無視して高額な支出をするなどの事情もあるため、引出しや契約前に確認してください。
高額な墓や法要費まで一律に扱わない
葬儀社への費用、お布施、墓石、仏壇、後日の法要などは、同じ目的に見えても内容が違います。ある裁判例で認められた支出を、別の家庭の全ての支出に当てはめることはできません。
親の未払医療費や借金も、葬儀の請求書に近い時期に届くからといって同じ扱いにはなりません。支払先と発生の経緯ごとに分けます。
本人資金と香典や保険金の出所を整理する

支払いに使うお金が誰のものかを最初に確認します。自分の預金、香典、親の預金、死亡保険金は、名前が似た入金でも帰属や取扱いが異なります。
立替金を遺産から回収する前に確認する
自分のお金で葬儀費用を支払うことは、親の預金を処分する行為とは異なります。ただし、後から親の口座から同額を戻す行為まで当然に問題がないとはいえません。
香典も誰に対する贈与か、どの範囲の費用に充てるかを確認します。死亡保険金は受取人の固有財産となる場合がありますが、親自身の権利である給付金と混同しないでください。
葬儀代と親の借金の返済を混ぜない
請求をまとめて処理すると、何にいくら払ったかが分からなくなります。葬儀、病院、家賃、借入金などを分け、債務の支払いを求められてもその場で親の預金を動かさないようにします。
自分が親の借金の保証人になっている場合には、相続放棄とは別の責任があることもあります。請求の根拠を契約書で確認してください。
民法の単純承認と相続税の葬式費用控除は別問題

相続税で控除できる葬式費用かという判断と、民法上の相続放棄に影響する処分行為かという判断は別です。同じ費用について、違う制度の要件を確認しています。
税務上控除できても放棄に影響しないとは限らない
国税庁は、通常の葬式に要する費用や火葬・埋葬等の所定の費用を示す一方、香典返し、墓石の購入、初七日等の法会の費用などを控除できない例として挙げています。
この税務上の一覧が、そのまま相続放棄で支出してよいものの一覧になるわけではありません。放棄した人が現実に葬式費用を負担した場合等の税務も、取得したみなし相続財産などの事情と合わせて税理士へ確認します。
領収書と支払明細を残す
葬儀社の総額だけでなく、内訳、契約書、領収書、引出しと振込の記録を保存します。お布施等で領収書がない場合も、相手、日付、目的、金額を記録します。
家族間の立替や精算があるなら、それぞれの入出金を対応させます。記録を残すことは支出を必ず適法にする条件ではありませんが、事情を判断するための資料になります。
支払い済みなら資料を持って放棄期限前に確認する

すでに親の預金から払っていても、それだけで放棄を諦める必要はありません。何にいくら使い、その時点で借金をどこまで知っていたかを整理し、追加の支出前に弁護士へ確認します。
請求書や契約書、領収書、預金の履歴を持参し、相続財産の全体も伝えます。裁判所への説明では不利に見える支出も省かず、経緯を正確に示してください。
相続放棄は原則として自己のために相続開始があったことを知った時から3か月以内に申述します。葬儀後に落ち着いてから考えればよいと待たず、調査に時間がかかるなら期間伸長も検討します。
税務上の対象を調べる場合は、相続税で控除できる葬式費用の一覧も確認します。その一覧を、相続放棄前に遺産から自由に払える費用の一覧として使わないことが大切です。
よくある質問

葬儀をすると相続放棄できなくなりますか
葬儀を行うことだけで放棄できなくなるわけではありません。親の財産を使う場合は、その支出の内容や金額等から単純承認の問題を確認します。
葬儀代は親の預金から払ってもよいですか
一律に問題ないとはいえません。相当な支出を認めた裁判例はありますが、遺産や債務、金額等によるため、引出し前に弁護士へ確認してください。
自分が契約した葬儀代も相続放棄で払わなくてよくなりますか
自分の契約上の支払義務は相続放棄では消えません。親の相続債務と、自分が葬儀社等へ負った義務を分けて確認します。