家族信託でも遺留分は消えない 契約と受益権の確認点

家族信託を使っていたからといって、遺留分の問題がなくなるわけではありません。ただし、信託財産の名義を持つ受託者へ、直ちに不動産の返還を求めればよいとも限りません。親の死亡後に確認するなら、契約書から「誰が、何の利益を、いつ取得したか」を調べ、金銭の請求と信託の効力を争う問題を分けます。
- 受託者という名義と利益を受ける受益権を区別する
- 契約書・受益権の承継・信託外財産を一緒に調べる
- 資料がそろうのを待たず遺留分の期限を相談する
信託へ名義が変わっても遺留分の検討は必要になる

財産を管理する受託者と利益を受ける受益者を分ける
家族信託は、財産の管理や処分を受託者へ任せ、契約に沿って受益者へ利益を渡す仕組みです。長男へ信託登記がされていても、長男が不動産の利益を自由に受け取れるとは限りません。
| 立場 | 確認する内容 |
|---|---|
| 受託者 | 管理・処分をする人。名義だけで利益の取得者と決めない |
| 受益者 | 賃料や売却代金などの利益を受ける人とその内容 |
| 次の受益者 | 親の死亡等で誰がどの受益権を得るか |
| 終了時の帰属先 | 信託が終わったときに残余財産を誰へ渡すか |
受益権には何が含まれるか、取得の原因が何かによって検討が変わります。「信託財産は遺産分割の対象でない」という説明だけで、遺留分に関する調査を終えないでください。
信託契約と受益権の承継時点を確かめる

信託外の財産と過去の贈与も合わせて整理する
例として、父が自分を受益者として賃貸不動産を信託し、父の死亡後は長男が受益者になる契約を考えます。この場合、父の死亡時に信託を終えて財産を渡す契約と同じ内容とは限りません。原契約だけでなく変更契約、受益者の記載、終了条項を並べます。
父の信託外の預金、ほかの遺言、過去の贈与、債務も調べます。信託不動産の評価額だけに遺留分割合を掛けて、すぐ請求額とするのは避けます。誰がいつ取得した利益を計算へ含めるかは、契約と適用法を踏まえた検討が必要です。
名目の割合だけで受益内容を判断しない
受益権の割合が書かれていても、賃料を受け取れるか、売却代金の給付があるか、実際に何が支払われているかを確認します。登記事項証明書の信託目録と、給付・管理の記録も相談資料に加えてください。
侵害額の金銭請求と信託の効力を争う問題を分ける

遺留分を害すれば信託全体が当然無効とはいえない
現行民法1046条の遺留分侵害額請求は、原則として侵害額に相当する金銭を求める制度です。これと、公序良俗違反などを理由に信託契約の効力そのものを争う主張は、目的と要件が異なります。
| 問題 | 調べる内容 |
|---|---|
| 遺留分侵害額の金銭請求 | 権利取得の原因・時期、評価、負担する相手と金額 |
| 信託の全部又は一部の効力 | 契約の目的・内容、実際の運用、無効を基礎付ける個別事情 |
旧法下の裁判例を現行法へそのまま当てはめない
専門家の解説では、2018年9月12日の東京地裁判決で信託の一部が公序良俗に反するとされた事例が紹介されています。ただし、旧法下の個別事例です。遺留分を侵害する信託はすべて無効、または逆に金銭だけ払えばどんな契約でも有効、と結論付ける根拠にはできません。
期限を確認して契約書と取引資料を弁護士へ示す

税務上の扱いが法的結論を決めるわけではない
相続税上どう扱われるかと、民法上誰にどの請求ができるかは別に確認します。「税務では相続扱いと聞いた」という説明だけで、対象財産や請求先を決めないでください。
遺留分侵害額請求権は、相続開始と侵害する贈与・遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは時効により消滅し、相続開始から10年を経過したときも同様です。いつ知ったかが問題になるため、死亡日、契約を知った日、説明された内容を記録します。
契約書の開示を求めただけで、遺留分の権利行使まで済んだとは限りません。契約書がない段階でも、戸籍、わかる財産、登記、受託者とのやり取りを持ち、弁護士へ期限と必要な意思表示を先に確認します。
関連する手順は、家族信託で兄弟がもめる原因は 契約前の説明と管理報告で防ぐ対立で確認できます。
よくある質問

家族信託なら遺留分をなくせますか。
家族信託を使うだけで遺留分の問題が消えるとはいえません。契約の内容、受益権などの取得者と時期を調べ、個別に検討します。
受託者になった兄に不動産を返すよう求めますか。
受託者という名義だけで請求相手や方法は決められません。現行法の遺留分侵害額請求は原則金銭請求であり、信託の効力を争う問題とは分けて相談します。
契約書が開示されるまで待ってよいですか。
資料待ちの間にも期限の問題が生じます。死亡日や契約を知った日を記録し、手元の登記ややり取りだけでも弁護士へ権利行使の期限を確認してください。
まず契約書・変更契約の有無、父母の死亡日、信託を知った日を一枚に記録してください。全資料を待たず、どの権利をいつ行使する必要があるかを確認することが先です。