認知症の相続人がいる遺産分割 成年後見が必要な場合と手続き

認知症の相続人がいても、その人を除いて遺産分割を決めることはできません。本人が分け方とその結果を理解できない状態なら、成年後見人など、必要な権限を持つ人が本人のために手続きを進めます。
ただし、認知症と診断されただけで必ず成年後見が必要になるわけではありません。遺言の内容、本人の判断能力、必要な手続きの範囲を確認してから、家族がどの制度を使うか検討することが大切です。
- 診断名よりも協議の内容を理解して判断できるかが基準になる
- 後見人も相続人なら本人との利益相反への対応が必要になる
- 現行制度では分割の終了だけを理由に後見を終えることはできない
認知症の診断名だけで遺産分割の可否は決まらない

協議の内容と結果を理解できるかが基準
父が亡くなり、母と子が相続人になったとします。母に認知症の診断があっても、財産の内容や自分の取得額を理解し、分け方を判断できる状態なら、直ちに協議ができなくなるわけではありません。
一方、何を手放して何を取得するか理解できない状態での意思表示は、有効な協議の土台になりません。日常会話ができることと、不動産を含む遺産分割を判断できることは同じではないため、医師の診断や専門家の確認が必要になる場合があります。
家族による代筆と無断の代理は分けて考える
手が不自由な人の意思を確認して補助することと、判断できない本人に代わって家族の考えで署名押印することは別です。子が母の実印を預かっていても、それだけで母を代理する権限は生じません。
母の取り分を多くする案であっても、無断で署名してよい理由にはなりません。後から効力を争われると、預金の分配や登記まで問題が広がるため、書類を作る前に本人の意思確認と代理権を整理します。
遺言と判断能力を確認して必要な手続きを選ぶ

遺言どおりの取得なら協議が不要な場合がある
父が有効な遺言を残し、特定の不動産を取得する人などを定めている場合には、その内容に従って進められる手続きもあります。遺産分割協議を行わずに済むのか、遺言執行者の権限で対応できるのかを確認します。
もっとも、遺言があれば財産管理の問題がすべてなくなるわけではありません。母が受け取る預金の管理や不動産の売却に別の権限が必要になる場合もあります。遺言と違う分け方を家族で決める場合は、母を含む協議の有効性が改めて問題になります。
後見と保佐と補助は本人の状態に応じて異なる
2026年10月15日時点の法定後見は、判断能力の程度に応じて後見、保佐、補助に分かれています。後見人は広い代理権を持ちますが、保佐人や補助人が遺産分割を代理するには、その行為について家庭裁判所から代理権を付与されているかを確認する必要があります。
2026年6月24日に公布された改正法は、後見と保佐を廃止し補助へ一元化する内容を含みますが、成年後見制度の見直し部分はこの確認日時点では未施行です。将来の制度を、現在利用できる仕組みとして扱わないでください。
成年後見の申立ては分割案と生活の資料をそろえる

本人の住所地の家庭裁判所へ申し立てる
申立てができるのは本人、配偶者、四親等内の親族などで、本人の住所地を管轄する家庭裁判所へ提出します。申立書に加え、診断書、本人情報シート、戸籍や財産・収支の資料などを準備し、必要に応じて鑑定や調査が行われます。
母の生活費、介護費、入所費などが分かる資料もそろえてください。遺産をどう分けるかだけでなく、相続後に母の生活を支えられる財産を確保できるかが、判断の材料になります。
家族が候補者でも選任されるとは限らない
子を候補者として届けることはできますが、家庭裁判所が適任者を判断します。財産の規模や親族間の対立などによって、弁護士や司法書士などの専門職が選ばれたり、後見監督人が付いたりする場合があります。
申立ての手数料や郵便料、登記手数料に加え、鑑定が必要ならその費用も確認します。専門職の報酬は一律の定額ではなく、家庭裁判所の審判によるため、申立費用だけで総負担を判断しないようにします。
後見人は家族全体より本人の利益を優先する

本人の取り分と生活費を確保する
後見人が判断するのは、家族全体に都合のよい分け方ではなく、母本人の利益です。「子の方が今後の管理をしやすい」という理由だけで、母の取得分を減らすことはできません。
通常は法定相続分を確保することが基本になります。例外的にそれを下回る分割を考える事情があるなら、合意を成立させる前に裁判所へ相談し、母にとっての必要性や利益を資料で説明します。
後見人も相続人なら利益相反への対応が必要
母の後見人である子が、父の共同相続人でもあるなら、子の取り分と母の取り分が対立します。後見人だからそのまま母も代理できる、と考えることはできません。
成年後見監督人が選任されている場合は監督人が本人を代理します。監督人がいない場合には特別代理人の選任などが必要になるため、協議書の作成前に体制を確認してください。保佐や補助についても、権限の内容に合わせた確認が必要です。
遺産分割後も後見と財産管理は続く

報告と報酬を含む長期の負担を確認する
現行制度では、相続手続きが済んだという理由だけで成年後見を終了させることはできません。判断能力の回復などの事情がない限り、本人の財産管理と裁判所への報告が続く点を、申立ての前から理解しておきます。
親族が後見人になった場合でも、母の財産と自分の財産を分け、収支の記録と領収書を残します。改正法では必要性がなくなった場合の終了なども見直されますが、現行の継続管理を省略できる根拠にはなりません。
相続税申告と登記の期限を並行して管理する
成年後見の準備をしていても、相続税の申告期限は自動で延びません。申告が必要なら原則10か月の期限に間に合うよう、税理士と未分割での申告や特例の手続きも並行して確認します。
まず、遺言書、相続人の一覧、母の診断に関する資料、遺産と生活費の一覧を一つにまとめてください。分割案を先に家族で決め切るよりも、母がどの手続きに参加する必要があるのかを整理する方が、適切な支援につながります。
今回の協議とは別に、判断能力があるうちの資料整理を考える家族は、親と進める相続準備も参考にしてください。準備をしたことだけで、将来の代理権を取得できるわけではありません。
よくある質問

認知症と診断されたら必ず成年後見が必要ですか
必ずではありません。本人が協議の内容と結果を理解して判断できるか、遺言により協議をせずに進められるかなどを確認します。
子が母の成年後見人なら父の遺産分割を代理できますか
子も父の相続人なら利益相反が生じます。成年後見監督人による代理、または特別代理人の選任などの対応が必要です。
相続が終われば成年後見をやめられますか
現行制度では、相続手続きの終了だけを理由に後見を終えることはできません。将来の改正制度とは区別して、継続する管理と費用を確認してください。