遺産を勝手に処分されそうなとき 保全処分と証拠の準備

他の相続人が実家を売る準備をしている、預金を移してしまいそうだ。処分が切迫している場合は、家族への説得を続けるだけでなく、裁判所の保全処分を利用できるか弁護士へ相談します。
使う手続きは、遺産分割を進めるための保全なのか、所有権や返還請求など別の権利を守る保全なのかで異なります。対象財産と処分の予定、現在ある証拠を特定し、申立てだけで禁止の効力が生じるとは考えないでください。
処分されるおそれがある財産と証拠を特定する

保全は、結論が出る前に権利を守るための暫定的な手続きです。「家族を信用できない」という気持ちだけでなく、何が、いつ、どのように失われるおそれがあるのかを示す必要があります。
売却の予定や引出しの動きを時系列にする
土地なら登記事項、売出しの資料、契約予定日、連絡の記録を集めます。預金なら銀行と口座、出金や送金の手がかりを整理します。既に処分されたのか、これから処分されるのかで必要な対応が変わるため、時間の経過を正確に残してください。
証拠資料は適切な方法で確保する
他人の端末へ無断で入ったり、相手の書類を実力で取り上げたりする方法は勧められません。適切な方法で確保できた登記、通知、メール等を保存し、情報が不足している部分は未確認とします。資料が全部揃うまで相談を待つ必要もありません。
| 相談へ持つ情報 | 具体的な記録 |
|---|---|
| 対象財産 | 土地の表示・銀行と口座・権利関係 |
| 迫る処分 | 売却や送金の予定・日時・連絡の証拠 |
| 本案の状況 | 調停・審判・民事訴訟の有無と事件番号 |
| 未確認の点 | 不足資料・推測の根拠・今後の期限 |
遺産分割の保全と民事保全は本案に応じて選ぶ

遺産を分ける手続きに伴う保全と、別の民事上の権利を守る保全は、本案が異なります。本案とは、最終的に何を判断してもらう手続きか、ということです。
分割審判前の仮差押えや仮処分を確認する
家事事件手続法105条・200条には、遺産分割の調停や審判に伴う管理者選任、仮差押えや仮処分等の規定があります。どの財産について何を求めるかを定め、本案の手続きと一緒に検討します。単に「遺産を凍結する」という一種類の制度ではありません。
所有権や返還請求など民事訴訟の保全を区別する
ある不動産がそもそも遺産に含まれるか、名義を戻す権利があるかなどは、民事訴訟での判断が必要になる場合があります。その権利を守る民事保全と、家裁の分割保全を混ぜないことが大切です。相談時には何が争われているかも説明してください。
共有や取得者の合意が背景にある場合は、兄弟で実家を相続するときの分け方も参考になります。ただし、処分が切迫する場面では通常の分割検討だけで待たないでください。
本案の申立てと保全の必要性を併せて確認する

家裁の遺産分割に関する保全は、分割の調停または審判が申し立てられていることなどが前提になります。話し合いをしているだけの段階でも、必要に応じて本案と保全を同時に相談します。
家事事件手続法の本案と急迫性を確認する
家事事件手続法200条2項は、強制執行を保全し、または関係人の急迫の危険を防ぐ必要がある場合の保全を定めています。財産の特定、求める権利、危険の内容を資料で示します。申立書を受け付けてもらっただけで処分が禁止されるわけではありません。
疎明資料と担保の要否を事案ごとに調べる
担保の有無や額は、利用する手続きと事案で確認します。同条1項の管理者選任等に関する無担保の規定を、すべての仮差押え等へ広げることはできません。弁護士へは申立費用だけでなく、担保、命令後の実行、本案を続ける負担まで尋ねます。
財産管理の制度と処分を止める命令を混同しない

財産を管理する人を選ぶことと、特定の処分の効力や優先関係を保全することは同じではありません。制度名が似ていても、選ばれる人の権限と目的を確認します。
相続財産の保存と管理を担う制度の目的
民法897条の2による保存に必要な処分、分割事件の保全としての管理者、相続人の存在が明らかでない場合の清算人などは、対象となる場面が違います。行方不明の相続人のための不在者財産管理人も別の制度です。親族が揉めているだけで何でも清算人へ任せられるわけではありません。
処分禁止の命令と登記の効力を確認する
不動産の処分禁止の仮処分では登記による保全が問題になりますが、物理的に売買の話を一切できなくするという意味とは限りません。命令の内容、対象者、対象財産、効力を専門家に確認します。調停前の処分の実効性も、執行できる保全命令と分けて理解してください。
期限と対象財産の資料をそろえて弁護士へ相談する

緊急の相談では、資料の量より、何をいつまでに守る必要があるかが伝わることが大切です。分かる事実と推測を分けた時系列を一枚にまとめます。
登記や通帳と連絡記録を保存する
財産の登記や残高資料、戸籍や遺言、処分を示す連絡、相手への対応履歴を添えます。家裁の事件が既にあれば事件番号と申立資料も必要です。弁護士へ、どの本案と保全が適切か、今ある証拠で足りるか、不足資料をどう得るかを確認します。
保全後の本案と申告期限も管理する
保全で財産を守れたとしても、最終的な分割や返還請求が終わるわけではありません。相続税の申告期限も自動的には止まりません。まず処分の予定日と対象財産を特定し、資料を保存したうえで、対応できる弁護士へ早めに連絡してください。
よくある質問

遺産分割の申立て前でも保全だけできますか
遺産分割に関する家事の保全は本案の係属等の要件を確認します。本案と同時に申し立てる方法を含め、弁護士へ相談してください。
保全を申し立てればすぐ売却できなくなりますか
申立てだけで禁止の効力が生じるわけではありません。裁判所の判断、命令内容、登記等の実行と効力を確認する必要があります。
財産管理人が選ばれればすべての処分を止められますか
制度と権限によります。管理者の選任と特定の処分を禁じる命令は目的が違うため、守りたい財産にどの措置が必要か確認します。