家族信託の確定申告は誰がするか 家賃と帳簿・税務書類の整理

父が受益者、子が受託者としてアパートを管理する通常の家族信託では、家賃所得は原則として父に帰属します。子の名義の信託口口座に家賃が入ることだけで、子の所得になるわけではありません。
一方、子には信託財産の帳簿作成等の仕事があり、税務署へ信託の計算書などを提出する必要も別に確認します。所得税の確定申告と、信託の管理・法定調書の提出を分けると、誰が何を準備するかが見えてきます。
家賃を管理する子と所得が帰属する親を分ける

最初に信託契約書の委託者・受託者・受益者を読みます。ここでは、父が財産を託してその利益を受け、子が管理する自益信託を主に考えます。
信託契約から受益者と受託者を確認する
父が家賃を受ける権利を持つ受益者なら、通常は信託不動産から生じる所得も父の所得として扱います。受益者が複数いる、途中で受益者が変わる等の場合は、その権利の内容を確認します。
全ての信託が同じ課税方式ではありません。投資商品などの信託や特殊な契約を、家族信託という呼び方だけで同じ扱いにしないでください。
口座名義だけで家賃所得の申告者を決めない
子が口座や契約を管理していても、管理する権限と利益を受ける権利は別です。子が父へ生活費を送るたびに新たな贈与が起きる、という理解にも直ちにはなりません。
申告者を考えるときは、通帳の名義より信託契約で誰に利益が帰属するかを見ます。契約書と口座明細を同じ税理士へ渡せるようにしておきます。
信託の利用目的自体を検討している段階なら、家族信託が向かないケースとほかの方法の違いも確認してください。本稿は、既に賃貸物件の信託を運用する年次実務を扱います。
受託者は信託の収支をほかの家計から分ける

所得が父に帰属しても、子の管理記録は欠かせません。受託者は、信託財産と自分の財産が混ざらないように帳簿等を作成し、財産の状況を説明できるようにします。
家賃と修繕費を物件ごとに記録する
家賃、敷金、管理会社への支払い、修繕費、固定資産税などを、契約や領収書と対応させます。口座の出金額だけでは、経費なのか、父への給付なのか、立替えの清算なのかが分からなくなります。
建物の減価償却などは、当年の入出金だけでは計算できません。取得時の資料や過去の申告書も引き継ぎ、信託を始めたから帳簿上の取得費が時価へ変わると考えないでください。
年末に受益者へ渡す収支をまとめる
年末には、信託の収支と財産の残高をまとめ、受益者への報告や申告資料の準備へ使います。信託法上の貸借対照表等と、税務署へ出す信託の計算書は、目的と制度が別です。
子が受託者だから、父に代わって当然に全ての税務申告を代理できるわけではありません。父の判断能力や申告への関与、税理士への依頼方法も早めに確認します。
信託の赤字をほかの所得と自由に通算しない

信託に入れた賃貸物件の赤字は、ほかの所得と同じように差し引けるとは限りません。通常の賃貸物件の申告経験があっても、信託に特有の制限を確認します。
信託不動産の損失には特則がある
国税庁は、信託から生じた一定の不動産所得の損失を、生じなかったものとみなす特例を案内しています。その損失は、信託外の不動産所得の黒字から引くことも、給与等との損益通算に使うこともできません。
例えば、信託の賃貸物件が赤字でも、父が個人で持つ別のアパートの黒字から自由に控除できるとは考えないでください。信託ごとの収支と、信託外の収支を分けておく必要があります。
信託外の賃貸物件とも区分して計算する
複数の物件や信託があるときは、どの単位で損失を判定するかも重要です。各物件の赤字を見ただけで申告書へ転記せず、信託ごとの明細と法令の適用単位を確認します。
信託の帳簿に費用を記録することと、税務上その赤字を他の所得から控除できることは別です。修繕等を予定する年は、実施前に収支見込みを税理士と共有すると判断しやすくなります。
信託計算書と受益者の確定申告を別の日程にする

受託者が出す信託の計算書と、受益者が行う所得税の確定申告は、提出する人も日程も分けて整理します。確定申告を依頼しているだけで、両方の提出が済むとは限りません。
受託者の法定調書には独自の提出条件がある
信託会社以外の通常の受託者について、信託の計算書は原則として毎年1月31日までの提出が定められています。収益が一定額以下なら提出不要となる規定もありますが、免除には例外があります。
所得税法施行規則96条では、受益者等ごとの収益の合計3万円以下等の条件と、一定の配当等を含む場合などの適用除外を分けています。預金・株式等を含む信託を、家賃が少ないだけで一律に提出不要としないでください。
受益者が申告する資料と本人の関与を確保する
父の所得税申告は、信託からの所得と年金等のほかの所得を合わせ、通常の申告要件で判定します。信託の計算書を提出しただけで、父の確定申告が不要になるわけではありません。
提出様式は国税庁の最新案内を使います。名称の似た『信託に関する受益者別調書』は、一定の変更等が生じたときの別の書類なので、毎年の計算書と取り違えないようにします。
| 仕事・書類 | 主に確認する人 | 確認する時期 |
|---|---|---|
| 信託財産の帳簿と受益者への報告 | 受託者 | 日常の記録と契約・信託法による年次報告 |
| 信託の計算書・合計表 | 受託者 | 通常の家族受託者は原則翌年1月31日。提出条件を別判定 |
| 所得税の確定申告 | 所得が帰属する受益者 | 通常の申告要否とその年の期限で判定 |
| 受益者の変更等に伴う調書 | 受託者等 | 変更等が起きた事由ごとの条件と期限を確認 |
受益者の交代や契約変更は年次申告と別に処理する

毎年の収支が整っていても、受益者の死亡や契約変更があった年は別の確認が必要です。利益の帰属が途中で変わると、誰の所得として申告するかも変わり得ます。
変更日に帰属する所得を分ける
変更した日、変更前後の受益者、各人の権利を記録します。父が亡くなった場合の準確定申告や、次の受益者に関する課税・調書は、通常年の確定申告と別の日程で整理します。
契約書と帳簿を税理士へ一緒に渡す
まず契約書の受益者を確認し、前年の家賃一覧と口座明細を照合してください。そこへ管理費・修繕費・取得時の資料を加え、受託者の提出物と受益者の申告を誰が担当するかを決めます。
税理士へは『信託の申告をお願いします』だけでなく、家賃所得、信託計算書、変更時の調書のどこまで依頼するかを確認すると、担当の抜けを減らせます。
よくある質問

家賃が子の口座に入れば子が確定申告しますか
口座名義だけでは決まりません。通常の受益者等課税信託では、信託の利益を受ける受益者に所得が帰属します。契約書から権利関係を確認してください。
信託不動産の赤字は父の給与から引けますか
一定の信託から生じた不動産所得の損失には、生じなかったものとみなす特例があります。信託外の不動産所得との内部通算や給与等との損益通算を自由に行うことはできません。
収益が3万円以下なら信託の計算書は必ず不要ですか
必ずではありません。計算期間や受益者等ごとの金額に加え、収益の種類等による免除の適用除外も確認します。所得税の確定申告の要否とも別です。