信託した不動産を売るとき 売却権限と決済書類を照合する

家族信託に入れた家を売るときは、受託者が売主として進められるかを、信託契約書と登記の信託目録で確かめます。名義が子へ移っていることだけでは、売却の条件まで分かりません。
ここでは、父が委託者兼受益者、子が受託者となった家を、第三者へ売るケースを取り上げます。契約前の権限確認から、決済、売却代金の管理と税の資料までを一続きに整理します。
- 信託契約と信託目録で売却条件を照合する方法
- 所有権移転と信託登記の抹消の関係
- 決済の手残りと譲渡所得を分ける精算例
売却の目的と受託者の権限を契約と信託目録で照合する

信託法26条は受託者の管理・処分等の権限を定める一方、信託行為で制限できるとしています。まず、対象の家が信託財産として登記されていることと、契約上の処分権限を照合します。
| 確認資料 | 読む内容 | 次に確かめること |
|---|---|---|
| 信託契約書 | 売却の目的、権限、価格や同意の条件 | 父の生活費等の目的に合う売却か |
| 登記事項証明書と信託目録 | 受託者、管理方法、終了事由等 | 契約変更があるなら現在の記録と一致するか |
| 借入・担保の資料 | 残債、担保権、完済と抹消の条件 | 決済日に必要な返済額と金融機関の準備 |
| 候補となる売買契約 | 買主、代金、手付、決済日、特約 | 信託側の制限を満たす内容か |
たとえば「生活費の支払いのため必要があるときに処分できる」という契約であれば、施設費の見込みと売却理由を記録します。受益者等の同意を要する条項があれば、その取得方法も確認します。売る権限があるという一文だけを抜き出し、別の制限を読み飛ばさないようにしてください。
権限を追加・変更する必要がある場合は、信託法149条と契約の変更方法を確認します。父の判断能力が低下した後に、家族の相談だけで自由に契約を書き換えられるという説明にはなりません。
売買契約と決済で誰が署名し何を登記するかを決める

この例では、権限を持つ子が受託者として売買契約を締結します。書面には信託不動産の売却であることと受託者の立場を明らかにし、父個人が売主として署名する通常の売買と取り違えないようにします。
買主側や決済を担当する司法書士にも、契約の直前ではなく、信託契約書と信託目録を早めに渡します。必要な同意書、登記識別情報、本人確認、印鑑証明書、担保の抹消書類等を、誰が用意するかを決めてください。具体的な添付資料は取引と登記内容によって変わります。
売却による信託登記の抹消と信託全体の終了を分ける
信託財産である不動産が売却で信託財産から離れる場合、信託登記の抹消は、その権利の移転登記等と同時に申請する規定です。信託登記の抹消は受託者の単独申請が可能ですが、買主への所有権移転の申請まで一人で済むという意味ではありません。
登記を消す対象は売った不動産に関する信託の記録です。売却代金を引き続き管理する信託まで、必ずその日に終わるわけではありません。決済担当者とは、所有権移転、信託登記の抹消、必要な担保抹消を分けて段取りします。
売却代金を受益者や受託者の個人資金と混ぜない

信託財産の売却で得た代金は、原則として信託財産に属します。家という資産が金銭へ変わったのであり、子の名義で売ったから子が自由に使えるお金になったわけではありません。
契約で指定した管理方法と金融機関の取扱いに合わせ、買主がどの口座へ送金するかを決済前に確定します。父の生活費を給付するときも、受益者への給付としての記録を残し、売却代金を子の個人口座へ入れたまま家計と混ぜないようにします。
| 説明用の仮定 | 金額 | 管理上の区別 |
|---|---|---|
| 売買代金 | 2,400万円 | 信託財産の売却による入金 |
| 仲介等の決済支出 | 80万円 | 各支出の内容と領収書を保存 |
| 借入元本の返済 | 600万円 | 金融機関の完済計算と照合 |
| これらだけを差し引いた残額 | 1,720万円 | 税の支払い等を引く前の資金残額 |
2,400−80−600=1,720万円は、この三項目だけで計算した資金の残りです。未払費用や今後の税金があれば、実際に使える金額は変わります。受託者は決済精算書と口座入出金を突き合わせ、不動産の帳簿から金銭の帳簿へつなぎます。
手残りと譲渡所得を別に計算し終了条項も読む

上の1,720万円を、そのまま譲渡所得として申告するものではありません。借入元本600万円の返済は、売却代金を使った支払いであって、それだけで譲渡所得から控除できる費用にはなりません。80万円についても、内訳ごとに譲渡費用等への該当性を判定します。
取得費、建物の減価償却に関する資料、取得・売却の日付、仲介手数料等の証拠を別にそろえます。特例は信託で売ったというだけでは適用できず、受益者の居住状況など、その特例固有の要件を確認します。
このような受益者等課税の対象となる信託では、所得税法13条により、信託財産の収益・費用は受益者に帰属するものとして扱います。この例の父について必要な税務を整理し、売主として署名した子自身の所得だと取り違えないでください。
最後に、契約の終了事由を読みます。売却後も父の生活費を管理する契約なのか、不動産の処分を終了事由とする契約なのかで、その後の手続きが変わります。終了する場合は、清算、残余財産の給付と課税の確認を、決済資料とは別の作業として進めます。
関連する基本事項は、家族信託は必要ないか 向かないケースと遺言や成年後見との違いも参考にしてください。
契約や手元の資料をもとに相談する場合は、相続サポートの相談窓口をご覧ください。
よくある質問

信託した家は受託者だけの判断で売れますか
信託の目的と受託者の処分権限、契約上の制限や同意条件を確認します。受託者名義になっていることだけで、無条件に売却できるとは判断できません。
信託した不動産を売ると信託契約も終わりますか
必ず終わるわけではありません。代金は原則として信託財産となり、管理が続きます。売却を終了事由とする契約等では、その条項に沿って清算を検討します。
売却代金からローンを返した残りに所得税がかかりますか
資金の残額と譲渡所得は別の計算です。借入元本の返済をそのまま譲渡費用とせず、取得費や譲渡費用等を資料に基づいて判定します。