遺産の一部だけ先に分割できるか 合意の条件と協議書の書き方

実家の分け方が決まらなくても、合意できた預金などを先に分割することは検討できます。
協議による一部分割でも、原則として共同相続人全員の合意が必要で、賛成した人だけで取り分を確定させるものではありません。
先に現金を受け取るなら、その金額を後の遺産分割で調整するのかも決めておきます。分ける財産だけを書いて、残りの協議との関係を曖昧にしないことが大切です。
- 一部分割で先に財産を分ける条件がわかる
- 協議書に対象財産と残りの分割との関係を書ける
- 相続税の申告期限と未分割財産の扱いを確認できる
遺産は一部だけ先に分割することもできる

一部分割でも共同相続人全員の合意が基本
一部分割は、遺産全体のうち特定の財産について、誰が取得するかを先に確定する方法です。
たとえば、預金だけ合意し、不動産は引き続き協議する場面が考えられます。
財産が一部でも、その財産に権利を持つ人を確認した上で、原則として共同相続人全員が協議へ参加します。
相続人の一人を外したまま、多数決で分けることはできません。
預金払戻制度とは別の手続き
金融機関に対する一定範囲の預貯金払戻制度と、全員の合意による分割は別です。
払戻しでは一人で請求できる範囲が定められていますが、遺産全体を自由に受け取れる仕組みではありません。
銀行手続きの入口は預金の相続手続きと払戻し方法で確認できます。今回必要なのが合意による取得の確定か、一時的な資金確保かを分けて考えます。
先に分ける財産と残す財産を明確にする

後の分割で取り分を調整するか合意する
全体の遺産が分からない段階で、見つかった現金をすべて配ると、後から借金や税金、管理費用への対応が難しくなる場合があります。
先に財産と負債の見込みを共有してください。
一部分割で受け取る金額を、残りの遺産の分割で考慮するか、今回分は独立して確定するかも合意します。
単に「とりあえず分ける」という言葉だけでは、後の計算が食い違いがちです。
特別受益や寄与分で全体の均衡が変わる場合がある
生前贈与などの特別受益や寄与分があると、全体の取り分をどう調整するかが問題になります。
換金しやすい財産を先に多く渡してしまうと、残りの不動産だけでは調整しにくいこともあります。
たとえば子Aに現金を先渡しし、後の分割でその分を差し引くなら、その関係を協議書へ明記します。
どの価額で差し引くかも曖昧にせず、全体の分割案と合わせて検討します。
協議書は対象財産と取得者を特定して作る

預金の銀行名と口座や金額を記載する
対象の預金を特定するため、金融機関、支店、預金種目、口座番号などと、誰が何を取得するかを明確にします。
全部の残高を分けるのか、一定額だけなのかも区別してください。
金融機関が求める形式や署名押印等は、提出先の案内を確認します。協議書の表現が不明確だと、合意したつもりでも解約や払戻しが進まない場合があります。
残りを誰に任せるか勝手に決めない
協議書には一部分割であることを示し、記載していない財産は別途協議すること、今回の取得を残りの分割でどう扱うかを明記します。
残りを誰か一人に任せる条項を意図せず入れないようにしてください。
| 記載したい内容 | 曖昧にしない点 |
|---|---|
| 対象財産と取得者 | 口座等の特定と取得額や割合 |
| 残余財産の扱い | 今回の対象外は別途協議すること |
| 後の調整 | 今回の取得額を残りの分割で考慮するか |
| 提出手続き | 提出先の必要書類と全員の署名押印等 |
一部分割でも相続税の申告期限は延びない

10か月以内の申告と未分割財産の扱い
一部分割をしただけで、相続税の申告や納付を残りの分割まで待てるわけではありません。
申告が必要なら、原則として相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内に対応します。
分割済みの財産と未分割の財産を区別し、未分割分は原則として民法上の相続分等に従って計算します。
相続税の申告期限と未確定の事情がある場合も確認してください。
配偶者軽減や小規模宅地等の特例を確認する
配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例には、分割が関わる条件があります。
未分割のままでは原則として使えない部分について、分割見込書等の提出や、その後の更正の請求を検討します。
一部分割の対象にした財産と、特例を使いたい財産が一致しているかも確認します。預金だけを分ければ、未分割の実家まで特例を使えるとは限りません。
合意が難しいときは調停等で一部分割を検討する

他の相続人の利益を害するおそれが判断材料になる
共同相続人全員の合意が難しい場合は、家庭裁判所での遺産分割調停等を検討します。
一部分割を裁判所へ請求する場合は、ほかの共同相続人の利益を害するおそれがあるかなどが判断に関わります。
この制約を、全員が合意する協議の一部分割へそのまま当てはめないようにします。合意で進める方法と、裁判所に判断を求める方法では、確認する点が異なります。
支払期限のある費用と全体の遺産資料を準備する
相談には、先に分けたい財産だけでなく、全体の遺産、各人がすでに受け取った金額、納税や生活費などの期限を用意します。
急いで現金が必要な理由と、残りの分割をどう進めるかを一緒に説明してください。
最初に家族で確認するのは、合意できている財産の範囲です。
その財産を先に分けても、納税や残りの配分に支障がないかを確かめてから、書面へ落とし込みましょう。
よくある質問

相続人の一部だけが賛成して預金を分けられますか
協議による一部分割は、原則として共同相続人全員の合意が必要です。一定範囲の預貯金払戻制度とは区別してください。
預金だけ先に分けたら不動産の協議は不要ですか
不要にはなりません。残りの遺産は別途分割する必要があり、先の取得額をどう調整するかも決めておきます。
一部分割すれば相続税の申告を待てますか
申告期限は延びません。必要な場合は分割済みと未分割の財産を分け、期限内に申告・納付します。