事業承継で種類株式を使う前に 議決権と配当と拒否権を設計する

証券の資料を別の受取口座のフォルダーへ移すイメージ

後継者へ経営を任せながら、他の家族にも利益を残したいとき、種類株式が選択肢になります。ただし「議決権をなくす」「父に拒否権を残す」という言葉だけでは、誰が何を決められるかは定まりません。

父、後継者、非後継者の権利を表にして、配当、議決権、拒否権と死亡後の承継を確かめます。非公開の株式会社を想定した、専門家へ設計を相談する前の整理です。

この記事でわかること
  • 家族の希望を議決権と経済的利益へ分けられる
  • 配当優先と議決権制限と拒否権の違いがわかる
  • 父の死亡後の権利と定款手続きを確認できる
目次

家族ごとに議決権と配当の希望を書き分ける

提出書類を照合するための紙資料と筆記具

家族へ渡す株数を決める前に、経営判断を担う人と、配当等を受ける人を分けて書き出します。株式には経済的な権利と会社の意思決定に関する権利があるためです。

次は設計の希望を書き出すための架空例です。これだけで実現できる株式内容や税務上の適否が確定するわけではありません。

家族希望する役割配当等重要事項への関与死亡後に確認すること
父後継者へ経営を移す生活資金の確保を検討限られた事項の拒否権を検討残した株式の承継先と権利の終了条件
子A日々の経営を担う会社の財源に応じる通常の議決権を確保したいAに不測の事態があった場合
子B経営には参加しない配当優先を検討制限する議決権の範囲を確認売却や取得を請求できる条件

この表なら、父は日常の経営を妨げず重要事項だけに関わりたいのか、子Bは定期的な収入を希望するのか、といった違いが見えます。希望が一致しない部分を、株数の調整だけで解決しようとしないことが出発点です。

配当優先と議決権制限と拒否権の効果を分ける

取引記録を保管するファイルと資料

会社法108条は、配当、残余財産、議決権を行使できる事項、取得の条件などについて異なる内容の株式を認めています。どの項目を変えるかは定款で具体化します。

主な設計変えること別に確かめること
配当優先他の種類より先に受け取る条件等配当可能な財源と決議、未払い時の扱い
議決権制限議決権を行使できる事項等種類株主総会など残る権利
拒否権付特定事項に種類株主総会の決議も求める対象事項、条件、将来の保有者

配当優先株は、毎年必ず一定の現金を受け取れる預金ではありません。会社の利益や分配可能額、定款上の条件と決議を踏まえて確認します。

また、議決権を制限した株式でも、株主としての権利が全てなくなるわけではありません。対象となる決議や種類株主総会の扱いを具体的に読む必要があります。

拒否権は重要事項に追加の決議を求める仕組み

いわゆる黄金株は、定款で定めた事項について、その種類の株主による決議も必要とする設計です。父が一株持てば全てを自由に決められるという意味ではありません。

子Aが通常の株主総会で十分な議決権を持っていても、対象事項では父側の決議が必要になることがあります。どの決定を追加で止められるかを、家族の表へ書き戻します。

拒否権を残す人と死亡後の出口を決める

手続きの期限を確認するカレンダーと資料

父に拒否権を残すなら、父の死亡後を同時に設計します。その株式が死亡によって当然に消えるとは限らず、取得者が決まるまで相続人間の準共有となる問題もあります。

例えば、父の希望は子Aへの助言だったのに、その株式を別の相続人が取得すると、経営判断に必要な同意を得られないかもしれません。父存命中の安心と、死亡後の運営は別に考えます。

死亡等を取得事由とする条項、権利内容の変更、遺言等による取得者の指定など、会社法と相続の双方から実現方法を検討します。取得対価や必要な財源を用意できるかも確認が必要です。

相談時には「拒否権が必要な期間」「父以外に持ってほしくない理由」「父が判断できなくなった場合」を書き添えます。一つの条項で全て解決できると決めず、条件ごとに未確認を残してください。

定款手続と税評価を権利表に合わせて確認する

合意の内容を確認する契約書類

家族が権利表に納得しても、そのまま既存株式の内容が変わるわけではありません。現行定款、発行済み株式、株主構成を基に、定款変更や必要な決議、同意、登記の手順を弁護士や司法書士等へ確認します。

税務でも、無議決権だから価値がゼロになるとは限りません。国税庁には種類株式に関する評価の取扱いがあり、配当優先等の権利内容と株主区分などに応じた確認が必要です。

遺留分を考える際も、経済的価値を残す以上、その権利内容を踏まえた検討が欠かせません。拒否権を設けたことが、そのまま遺留分の問題を解決するわけではありません。

最終案は、家族別の権利表、変更後の定款案、株主名簿、会社の資金計画を並べて確認します。「誰に何株」だけでなく、誰がどの決議に関わり、どの条件で現金を受け取るかまで説明できる形にします。

関連する資料の準備は、遺留分の計算方法 家族別の割合と生前贈与を含む侵害額の求め方も参考にしてください。

よくある質問

疑問点を調べるための本とメモ

議決権のない株式なら相続税も遺留分もゼロですか

議決権がないことだけで経済的価値はゼロになりません。配当などの権利内容と評価の条件を確認します。

父に拒否権株式を一株残せば後継者は自由に経営できますか

対象となる事項では追加の決議が必要となり、後継者の判断を止める場合もあります。対象事項と父の死亡後の承継を一緒に設計します。

家族で合意すれば普通株式を種類株式へ変えられますか

合意だけでは完了しません。会社の定款や株主構成に応じた決議、同意、登記等を確認してください。

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