営業権の相続税評価 平均利益と企業者報酬の計算

親の店舗の屋号や顧客を引き継いだとき、営業権も相続税評価の対象となることがあります。ただし、事業を続けることだけで一定額を加えるものではなく、通常を超える収益力を通達の算式で評価します。
計算では、申告書の事業所得をそのまま3年平均するだけでは足りません。利益の調整、前年の利益による上限、標準企業者報酬、総資産の順に、説明用の数字を当てはめて見ていきます。
- 相続税の営業権と売買ののれんを区別する
- 利益3年の調整と前年の上限を反映する
- 超過利益から年金現価率で営業権を求める
屋号や顧客が残るだけで営業権の価額は決まらない

営業権は、店の信用、取引関係、立地、技術などが組み合わさって生じる超過収益力に関わる財産です。在庫や設備、売掛金の評価と別に、営業権の評価が必要かを検討します。
一方、医師や弁護士などの個人的な技術・手腕・才能を主とする事業の営業権で、その人の死亡とともに消滅するものは、財産評価基本通達165の注により評価しません。職業名だけで、どの事業も必ずゼロと決める規定ではありません。
売却価格ののれんと相続税の算式を分ける
事業売却の交渉で示されるのれんや買収価格と、相続税の営業権評価は目的も計算も異なります。買い手から価格を提示されていても、それだけで通達の計算を終えず、死亡日の事業と利益資料を示します。
3年の利益を調整し前年の利益を上限にする

個人事業の場合、原則として死亡年の前年以前3年間の所得を調整して平均します。その平均が前年の調整後の所得を超える場合は、前年の金額を使います。好調だった古い年に引かれて平均利益が高くなりすぎないか、二つの数値を比べます。
調整では、非経常的な損益、借入金等の支払利子、青色事業専従者給与又は事業専従者控除等がなかったものとして計算します。法人なら、役員給与や繰越欠損金の控除等についても通達の条件を確認します。
| 説明用の個人事業の年 | 調整後の所得 | 平均利益に使う判断 |
|---|---|---|
| 2023年 | 9,000万円 | 3年合計へ含める |
| 2024年 | 8,000万円 | 3年合計へ含める |
| 2025年 | 7,000万円 | 前年の金額として平均との比較に使う |
| 3年平均 | 8,000万円 | 前年7,000万円を超えるため採用せず、7,000万円を使う |
一時の損益と通常の経費を分ける
例えば2025年の元の事業所得6,500万円に、専従者給与400万円と支払利子100万円が費用として含まれ、ほかの調整がないと仮定すれば、6,500+400+100=7,000万円です。費用の足し戻しと、非経常的な利益の除外では、調整の向きが異なります。
決算書、申告書、総勘定元帳と各支払いの根拠を対応させ、なぜ増減したかを残します。売上3年の平均や、調整前の所得を前年上限へ使わないようにしてください。
標準企業者報酬と総資産の5%を引く

次に、平均利益金額の50%から、通達に定める標準企業者報酬額と、総資産価額の5%を引いて超過利益金額を求めます。実際に経営者が受け取っていた給与を、そのまま標準企業者報酬とする計算ではありません。
平均利益が1億円以下の区分では、標準企業者報酬額は「平均利益×0.3+1,000万円」です。前の例の7,000万円なら、7,000×0.3+1,000=3,100万円となります。1億円を超える利益帯には別の式があります。
通達で評価した総資産が6,000万円と仮定すると、その5%は300万円です。超過利益は、7,000万円×0.5−3,100万円−300万円=100万円となります。
負債を引いた純資産で総資産5%を計算しない
ここで使うのは総資産であって、借入金などを引いた純資産ではありません。個人事業は課税時期、法人は課税時期直前に終了した事業年度末という基準日の違いもあります。
現行166(2)の注では、平均利益金額が5,000万円以下なら、標準企業者報酬が平均利益の半分以上となり、営業権の価額は算出されないとされています。式が負になったから、その分をほかの相続財産から引けるわけではありません。
超過利益に持続年数に応じた年金現価率を掛ける

超過利益100万円は、まだ最終的な営業権の価額ではありません。営業権の持続年数に応じた基準年利率による複利年金現価率を掛けます。持続年数は原則10年です。
現価率は、将来にわたる金額を現在の価値へ直すための係数です。説明だけのために係数を8.0と仮定すれば、100万円×8.0=800万円となります。8.0は当月の公式値ではなく、実際の申告では課税時期に対応する表と期間で確認します。
古い5万円の足切りを現行計算へ持ち込まない
古い評価明細書には、現在とは違う報酬表や、超過利益5万円などの記載が残っているものがあります。検索で見つけた様式の数字をそのまま使わず、適用時期と現行165・166を照合してください。
最終的には、3年の利益調整、前年上限、標準報酬、総資産、現価率を一続きの明細にします。営業権だけでなく設備等も含めた財産の計上と、個人事業の廃業・開業の届出は、それぞれ別に進めます。
届出と帳簿の引継ぎは、個人事業主が死亡したときの事業承継も参考に、営業権の評価と並行して進めてください。
個別の契約や評価の相談先は、相続サポートの相談窓口をご覧ください。
よくある質問

平均利益が5000万円以下でも営業権を評価しますか
現行通達では、平均利益金額が5,000万円以下の場合は標準企業者報酬が平均利益の半分以上となるため、営業権の価額は算出されません。平均利益は所定の調整後の金額で判定します。
事業所得3年の単純平均を使えばよいですか
単純平均ではありません。非経常損益、支払利子、専従者給与等を調整し、3年平均が前年の調整後所得を超える場合は前年の金額を使います。
医師や弁護士の事業は営業権が必ずゼロですか
職業名だけで一律ゼロとはしません。本人の技術等を主とする事業に係る営業権で、本人の死亡とともに消滅するものは評価しないという条件です。