法人に不動産を遺贈するときの所得税 時価と納税資金

父の遺言で土地建物を法人へ渡す場合、家族に売却代金が入らなくても、故人の所得税を申告・納付する必要が生じることがあります。相続税だけを試算していると、支払いに使える現金が足りなくなるため注意が必要です。
ここでは、国内に住む人の不動産を国内法人へ直接、特定遺贈する場面を扱います。特定遺贈とは、土地建物など渡す財産を指定する遺贈です。遺言執行者が売って金銭を寄付する場合や、財産全体の一定割合を渡す包括遺贈とは分けて考えます。
- 法人への直接遺贈で生じる故人の譲渡所得を知る
- 時価と取得費を分けて所得と納税資金を見積もる
- 公益法人等の非課税承認と申告担当を確かめる
法人へ直接遺贈すると売却代金がなくても譲渡所得を考える

土地建物を法人へ遺贈すると、原則として、その時の時価で譲渡したものとして故人の譲渡所得を計算します。代金を受け取ったかどうかだけで課税を判断する仕組みではありません。値上がり益等を財産の移転時に清算する、みなし譲渡の取扱いです。
一方、通常の個人への遺贈や現金の遺贈まで、同じように不動産の譲渡益が生じるわけではありません。また、受け取る法人の側の法人税等と、故人側の所得税も別の問題です。
遺言の寄付という言葉だけで税務を決めない
遺言書では、受取人の正確な法人名と、何を渡す条項なのかを読みます。「不動産を遺贈する」のか「売却代金を寄付する」のかで検討が変わるため、家族が良かれと思って別の渡し方へ置き換えないでください。
これから遺言を作るなら、法人が現物の不動産を受け入れられるかも先に相談します。相続後なら、遺言執行者・受遺法人・税理士へ同じ遺言書を示し、税務上の前提をそろえましょう。
時価3000万円と取得費500万円は別の資料で裏付ける

みなし譲渡で使う時価と、相続税評価額や固定資産税評価額は、目的の違う金額です。手元の納税通知書に金額が載っているからといって、それをそのまま譲渡収入へ置くことはできません。
説明用に、不動産の時価が3000万円、故人の取得費が500万円、譲渡費用はないと仮定します。この単純な条件なら、3000万円−500万円=2500万円が譲渡所得の計算上の金額です。2500万円を納税するという意味ではなく、実際の税額は所有期間や適用条件などを踏まえて別に計算します。
| 分ける金額 | 探す資料と注意点 |
|---|---|
| 時価3000万円という仮定 | 対象物件の状態と価格資料。相続税評価額を代用しない |
| 取得費500万円という仮定 | 父の購入契約、建築・改良費、建物の償却等の記録 |
| 譲渡所得2500万円という仮定 | 時価から取得費等を引く計算。税率を掛ける前の金額 |
| 納税用の現金 | 相続人が使える預金や支払予定。不動産の時価とは別 |
取得費の資料がなくてもゼロと即断しない
昔の売買契約書が見当たらないときは、建築や増改築の領収書、購入時の精算書なども調べます。何が取得費に入り、どの調整が必要かは評価・申告担当へ確認してください。資料がないという理由だけで取得費をゼロにして申告を急がないことが大切です。
準確定申告の担当と納税に使える現金を先に決める

法人への特定遺贈では、法人が物件を受け取ったから当然に故人の所得税も負担する、とは考えません。故人の国税を納める義務の承継と、遺言に定める実際の費用負担を分けて確認します。
死亡した年の所得税の準確定申告は、必要な場合、相続の開始を知った日の翌日から4か月以内が原則です。不動産の評価や寄付先との調整が続いていても、期限の確認を後回しにはできません。包括遺贈では法人も包括受遺者として別の検討があるため、本稿の特定遺贈の例をそのまま当てはめないでください。
法人へ現金が入る予定と相続人の資金を混ぜない
例えば、家族は預金、法人は不動産を受け取る内容なら、預金から葬儀費や他の債務を払った後に、所得税の原資が残るかを見ます。法人が将来売る予定であっても、その代金を相続人が自由に使えるわけではありません。
遺言に法人が税金を負担する条項がある場合も、その効力と受入れ、実際の支払方法を専門家へ照会します。家族内の合意だけで税務上の納税義務者を変更できるという意味ではありません。
公益法人等への遺贈も非課税承認の要否を分ける

国や地方公共団体への寄付と、公益法人等への寄付の非課税要件は同じではありません。公益法人等への遺贈では、国税庁長官の承認など、租税特別措置法40条の条件を満たすかを確認します。法人名に公益の文字があることや、寄附金控除の対象となることだけで、みなし譲渡が非課税になるとは限りません。
国税庁は、公益目的事業に直接利用されることなどの要件や申請期限を示しています。承認を前提とするなら、受遺法人の利用計画と税務署への申請を、遺言作成の段階から相談してください。死亡後に調べ始める場合も、申請の期限と準確定申告の期限を別々に管理します。
承認後の用途変更や取消しも契約前に確認する
非課税の承認には、その後の公益事業への利用なども関係します。受け入れた後に売却・用途変更をする可能性があるなら、承認条件と取消しの影響を法人側の担当者と確認します。承認が取れれば将来も無条件に非課税が続く、という前提で資金計画を作らないようにしましょう。
制度の基本は、遺贈寄付の始め方 遺言の作成と税金の注意点も参照してください。
財産や申告について相談する場合は、相続サポートの相談窓口をご覧ください。
よくある質問

法人への不動産遺贈は売却代金がなくても所得税がかかりますか
原則として時価で譲渡したものとして故人の譲渡所得を計算するため、代金を受け取らなくても課税が生じる場合があります。非課税の特例や受取法人の区分は別に確認します。
相続税評価額をみなし譲渡の時価として使えますか
相続税評価額をそのまま使うとは限りません。不動産の時価と故人の取得費を、それぞれの根拠資料から確認して譲渡所得を計算します。
公益法人への遺贈なら自動で所得税が非課税ですか
自動ではありません。公益法人等への遺贈は、国税庁長官の承認、公益目的事業への利用など所定の要件と申請期限を確認する必要があります。