遺言執行者の財産目録 何を調べて誰に交付するか

遺言執行者の財産目録は、遺言に付いていた一覧を送り直せば済むとは限りません。遺言の対象を確かめ、預金や不動産を調べた結果を整理して、相続人へ遅滞なく交付するための書類です。
死亡日の残高と現在の管理残高、所有する不動産全体と故人の持分を分けて書くと、何を確認でき、何が調査中なのかが伝わります。就任して目録を作り始める人に向け、資料から記載し、交付後に補う手順を説明します。
- 遺言の対象と目録を作る範囲を対応させる
- 死亡日の残高や共有持分を資料から記載する
- 未確認事項と追補の履歴を相続人へ伝える
目録は遺言の実行範囲を確かめるために作る

自筆証書遺言に添付する目録とは違う
親が遺言を作った時の添付目録は、渡したい財産を示す資料です。執行者が死亡後に作る目録は、実際に残っている財産を調べた結果を示します。作成後に口座が増えたり、不動産を売っていたりすることもあるため、添付目録は調査の手掛かりとして使います。
特定財産だけの遺言では対象範囲も確認する
民法1011条は目録の作成と相続人への交付を求め、1014条は特定財産に関する遺言の場合の適用範囲を定めています。「すべての財産」なのか、特定の土地だけなのかを全文で読みます。判断が難しければ、調査する前に執行の範囲を弁護士へ確認してください。
死亡日と資料の取得日を分けて記載する

預金と不動産持分を資料から書き起こす
次の表は記載方法を考えるための仮定例です。金額を一列に並べるだけでなく、その数字の時点と根拠資料を対応させます。不動産は所在地や家屋番号などで特定し、故人の持分も別の欄に書きます。
| 対象 | 記載する内容 | 根拠と未確認事項 |
|---|---|---|
| 預金A | 死亡日残高500万円 | 残高証明書。死亡後の入出金は管理表へ |
| 共有の自宅 | 故人の持分2分の1 | 登記事項証明書。一棟全体を故人所有と書かない |
| 借入れ | 死亡日残高を照会中 | 契約書あり、金融機関への回答待ち |
未確定の債務と固有の保険金は区別する
現在の預金が480万円になっていても、死亡後に施設費20万円を払ったのであれば、死亡日残高500万円と支出の記録を分けます。差額を理由不明のまま処理しないことが大切です。
受取人指定の死亡保険金など、受取人固有の財産となるものを、当然に執行対象の遺産へ合算しないでください。税務上の課税対象と民法上の遺産は一致しないことがあります。必要なら参考欄を設け、権利の帰属を確認中であることも明示します。
調査中の項目を残して交付し追補する

未回答の照会と後から判明した口座を記録する
法律は「遅滞なく」作成・交付すると定めています。一律の30日などの期限ではありませんが、すべて確定するまで何か月も説明しない進め方は避けます。調査が長引く場合は、判明した内容、照会先、未確認の理由、回答予定を整理して、交付時期や方法を相談します。
交付後に別の口座が判明したら、追加財産と確認日、根拠資料を記載した追補を作ります。以前の版を消さず、どの項目を追加・訂正したかが分かるようにし、関係する相続人へ共有します。追補の予定があることは、必要な調査を後回しにしてよい理由にはなりません。
交付先と立会い請求への対応を残す
交付先は、遺言で財産を受け取る人だけで決めません。戸籍や相続放棄の状況から、相続人の範囲を確認します。1011条2項は、相続人から請求がある場合に、その立会いで作成するか、公証人に作成させることも定めています。交付日と送付方法、受領の記録を残してください。
目録と税申告や分割の判断は分ける

評価目的と対象が違う資料を混ぜない
目録を交付しても、遺産分割の合意や相続税申告が済んだことにはなりません。売却相場、固定資産税評価額、相続税評価額は目的が異なるため、単に「価額」と書くより、どの評価なのかを明示します。
税理士へ渡す資料には、遺産に含めなかった死亡保険金なども課税判断のために必要となる場合があります。目録、執行中の収支表、税務に用いる資料を対応させれば、同じ金額を二重に計上したり、対象外と思って伝え忘れたりするのを防げます。
関連する手順は、遺言執行者の役割と手続き 就任通知から財産の引き渡しまでで確認できます。
よくある質問

遺言に財産目録が付いていれば調査は不要ですか
不要とはいえません。遺言作成後の変動と死亡時の財産を確認し、執行対象を遺言の全文と対応させます。
目録の作成期限は30日ですか
民法は遅滞なく作成して交付すると定めています。一律30日ではありませんが、調査を放置せず、未確認事項と進捗を相続人へ説明します。
交付後に財産が増えたらどうしますか
根拠資料と確認日を記録して目録を補い、追加・訂正の内容を相続人へ共有します。以前の版も残して変更をたどれるようにします。
まず遺言の全文を読み、対象財産と照会先を一つずつ対応させてください。資料の取得日と未確認事項まで書いた一覧が、最初の目録の土台になります。