海外に住む相続人へ有価証券を渡すとき 国外転出時課税を確かめる

海外に住む相続人へ株式等を渡す相続では、相続税だけでなく、亡くなった人の所得税で「国外転出(相続)時課税」が生じないかを確認します。一定の対象資産を1億円以上持つ居住者が亡くなり、その資産の全部または一部を非居住者が取得する場合の制度です。
準確定申告の期限は原則4か月で、相続税の通常の10か月より先に来ます。故人の有価証券全体と取得費、居住歴、海外の相続人へ渡る範囲を、分割が固まる前から税理士へ示してください。
- 故人の所得税と相続人の相続税を分けて確認する
- 対象資産全体の1億円と故人の居住歴の判定
- 4か月の申告と納税猶予の準備に必要な資料
非居住者へ有価証券が移ると故人の所得税も確認する

この制度では、非居住者へ移る対象資産について、相続開始時に譲渡・決済したものとみなし、含み益に所得税が課されます。売却して現金を受け取っていなくても、故人の所得税の申告・納税が必要になることがあります。
日本の相続税だけで完了としない
所得税は故人の含み益、相続税は相続等で取得する財産の価額を基にする別の税です。さらに相続人が後で売る際の所得税や、居住国での課税も別に確認します。海外にいる相続人の国籍だけでなく、税法上の居住者・非居住者の判定が必要です。
対象資産全体の1億円判定と居住歴を確かめる

主な対象者は、相続開始時の対象資産の価額等が合計1億円以上で、原則として、相続開始前10年以内に国内に住所または居所を有していた期間の合計が5年を超える故人です。居住歴の細かな判定は、過去の在留状況等も含めて確認します。
非居住者に渡る部分だけで1億円を判定しない
対象資産は株式・投資信託等の有価証券、匿名組合契約の出資持分、未決済の信用取引やデリバティブ取引等です。土地や預金を含むすべての遺産の合計が1億円かどうか、という判定ではありません。
説明用に、父が対象の有価証券を1億2,000万円持ち、海外の子へ4,000万円分、国内の子へ8,000万円分が移るとします。1億円の判定は父の対象資産全体で行い、海外の子の4,000万円だけを見て対象外とはできません。一方、1億2,000万円分の全部へ当然に課税するのではなく、非居住者へ移る対象資産の含み益を確認します。
4か月の準確定申告へ評価と取得費を用意する

相続人は、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月を経過した日の前日までに、故人のその年の所得を準確定申告します。この制度による所得もその申告へ含めます。
相続税の10か月より先に期限が来る
| 確認する資料 | 主な用途 | 注意点 |
|---|---|---|
| 証券口座・銘柄別の保有明細 | 対象資産全体と死亡時価額 | 海外口座や非上場株式も調査 |
| 購入履歴・取得費の資料 | みなし譲渡の含み益を計算 | 相続税評価額と取得費は別 |
| 故人の居住歴 | 原則10年内5年超を判定 | 住所表示だけで確定しない |
| 遺言・分割状況と相続人の居住地 | 非居住者へ移る範囲を確認 | 未分割なら申告前提を相談 |
申告期限までに分割が決まらない場合も、期限を待ってよいわけではありません。未分割時の計算と、その後の分割による修正申告・更正の請求等には別の取扱いがあります。分割に時間がかかる事情も早期に伝えます。
納税猶予は納税管理人と担保や継続届が条件になる

所定の要件を満たすと、相続開始の日から5年間、延長の届出により最長10年間、所得税の納付を猶予できる制度があります。非課税や申告不要になる制度ではありません。
帰国や対象資産の処分も期限を確認する
原則として、非居住者である対象相続人全員による納税管理人の届出、準確定申告書の記載と必要書類、猶予税額と利子税に見合う担保等が必要です。継続適用届出書を翌年3月15日までに出すなど、猶予中の管理も続きます。
売却・贈与や届出漏れ等によって納付期限が確定する場合があります。猶予を受ける人の死亡時も単純に全額終了と決めず、承継する相続人の納税管理人の届出等を確認します。帰国による取消しも、全員の帰国、継続保有、所定の請求期限等があるため、帰れば自動的に税が消えるわけではありません。
最初に証券会社等へ死亡日現在の残高と取得費資料を依頼し、海外の相続人がいることを税理士へ伝えます。4か月の申告と担保準備を、相続税申告より先の予定として置いてください。
関連する確認:海外財産の相続税はどう決まる 居住地と国籍による課税範囲。
よくある質問

海外の子が受け取る株が1億円未満なら対象外ですか
それだけでは決まりません。故人の対象資産全体で1億円以上かを判定し、ほかの条件を満たす場合に非居住者へ移る部分の含み益を確認します。
これは海外に住む子の相続税ですか
制度上は故人の所得税に関するみなし譲渡課税です。子の相続税や後の売却、居住国での税金とは分けて確認します。
納税猶予を使えば何もしなくてよいですか
申告、納税管理人の届出、担保、継続届等が必要です。売却や届出漏れ、承継等で期限が変わる場合もあり、猶予中も管理を続けます。