遺言を作るとき診断書は必要か 判断能力を示す記録の残し方

通常の遺言を作る人全員に、診断書の添付が一律に義務付けられているわけではありません。ただし、高齢や病状によって判断能力が心配な場合には、作成時の状態を示す資料として診断や医療記録が役立ちます。
診断書1枚や認知症検査の点数だけで、遺言の有効性が必ず決まるものでもありません。本人が何を誰へ残すかを理解していたことと、作成に至る経緯を合わせて残します。ここでは遺言を作成する前の備えを扱います。
遺言能力は作成時に内容を理解できたかで考える

遺言には、本人がその内容や結果を理解して判断する能力が必要です。財産を渡す相手や配分を、家族が代わりに決めて本人の名前で残す手続きではありません。
年齢や認知症の診断名だけで決めない
高齢であることだけで遺言を作れなくなるわけではありません。また、認知症と診断されていることだけで、全ての遺言が一律に無効になるわけでもありません。
確認するのは遺言を作る時の状態です。以前は元気だった、後に症状が進んだという事情と、作成日の理解や判断を分けて把握します。
遺言の内容に応じて必要な理解を確認する
誰が家族で、どのような財産を持ち、その遺言で誰にどんな利益が移るのかを、本人が理解できたかを考えます。複雑な内容なら、必要な理解もその内容に即して検討します。
検査点数が一定以上なら全ての遺言が有効、一定未満なら全て無効という線引きではありません。病状や日常の状態、遺言の内容、作成の動機等を総合的に確認します。
診断書が必須の場面と備えとして役立つ場面を分ける

診断書が法的に一律必須ではない通常の遺言と、法律が特別な立会い等を求める場合を区別します。必要と推奨を混ぜないことが大切です。
一般の遺言で全員に添付が義務ではない
通常の公正証書遺言等でも、本人の状態によって公証人や支援する専門家が資料を求めることがあります。最初から不要と決めず、病状や気になる事情を隠さず伝えます。
診断書を用意すれば形式や本人意思の問題が全て解決するわけではありません。診断を受けた日と作成日が離れている場合は、その間の変化も確認します。
成年被後見人の特別な方式は別に確認する
成年被後見人が事理を弁識する能力を一時回復して遺言する場合、現行民法973条では医師2人以上の立会い等を求めています。遺言時の状態を付記して署名・押印するなどの方式もあります。
これは、一般の人が任意に診断書1枚を用意することと同じではありません。後見の審判がある場合は、審判書を示し、公証人や弁護士等へ必要な方式を確認してください。
医師には遺言の内容と作成予定日を伝えて相談する

医師への相談では、単に『相続のための書類が欲しい』ではなく、遺言の作成を予定していることと日程を伝えます。どの資料で何を示せるかを具体的に確認します。
検査の点数と日常の状態を一緒に残す
日常の受診記録、検査結果、薬の使用や体調の変化などは、作成時の状態を考える資料になります。医学的な評価と、遺言が法律上有効かという判断は別です。
診断書には何を書いてもらえば必ず有効になるという共通の文言はありません。診断の対象や記録の時点を確認し、公証人や法務の専門家が必要とする情報を医師と共有します。
作成日から離れた記録だけに頼らない
数年前の検査結果だけでは、現在の状態が十分分からないことがあります。作成時期に近い状態をどう残すかを考え、体調が安定して本人が説明しやすい日程も相談します。
受診や診断の費用、発行までの期間は医療機関によって異なります。本人の負担も考え、必要な資料と日程を専門家間で調整してください。
本人の言葉と作成過程を無理なく記録する

医療資料と合わせて、本人がどんな説明をし、どのように原稿を決めたかを残します。家族の期待する答えだけを集める方法では、本人の意思を示しにくくなります。
誰へ何を残したいか、その理由を本人に説明してもらう
誰へ何を残したいか、その理由を本人の言葉で説明してもらいます。面談の記録、原稿の変更履歴、相談した日付などを残すと、突然家族が内容を決めたものではない経緯を説明できます。
録音や録画を検討するときは、本人の理解と同意、保管方法にも配慮します。誘導した質問に短く答えた部分だけを切り取り、その記録だけで判断能力を証明できるとは考えないでください。
家族が答えを誘導した録画を証拠の中心にしない
原稿を読ませて同意した場面だけでなく、作成前後の経過が分かる記録も保管します。都合の悪い資料を隠したり、後から日付を整えたりすることは避けます。
介護記録や日常の支援の状況も、当時の状態を理解する材料になります。本人のプライバシーを守りながら、必要になった時に原資料へたどれるよう整理します。
| 残す資料 | 分かること・限界 |
|---|---|
| 診断書・検査結果 | 医学的な状態の資料。点数だけで法的有効性を保証しない |
| 作成前後の医療・介護記録 | 状態の変化と作成時期を照合する |
| 本人との面談記録 | 財産・受取人・結果をどう理解していたか |
| 原稿と変更履歴 | 本人が決めた内容と作成の経緯 |
| 録音・録画 | 本人意思を補う資料。同意・保管と誘導等に注意 |
公正証書にする場合も能力の資料を公証人へ共有する

公正証書遺言は公証人が本人意思と方式を確認して作成しますが、後に能力をめぐる争いが一切起きない保証ではありません。気になる病状は作成前に共有します。
体調に配慮して本人と専門家が話せる機会を作る
本人が落ち着いて説明できる時間と場所を相談します。利害関係のある家族が全て答えるのではなく、本人と専門家が意思を確認できる機会を確保することが大切です。
本人が内容を理解できていないときに、家族が『これが希望のはず』と補って進めないでください。作成できるか、どの支援が必要かを、医療者と法務の専門家へ相談します。
遺言案と医療記録の日時を照合する
遺言案、作成予定日、直近の医療資料、家族が気付いた変化を一覧にします。診断名だけではなく、本人が何を理解し、どこに説明や支援が必要かを伝えます。
まず親の希望する内容と作成時期を、公証人や弁護士等へ示してください。そのうえで、診断書を含む必要な資料を医師へ相談し、形式と本人意思の両方を整えます。
本人の意思を聞きながら準備を進める際には、親との相続の話し合い方も参考にしてください。家族の希望を決める話し合いと、親本人の遺言意思の確認は分けます。
よくある質問

高齢者が遺言を書くときは必ず診断書が必要ですか
通常の遺言で全員に一律の添付義務があるわけではありません。ただし、本人の状態や作成方式によって必要な資料が異なるため、病状等を公証人や専門家へ伝えて確認します。
認知症検査の点数がよければ遺言は必ず有効ですか
必ず有効とはいえません。点数は判断材料の一つであり、作成時の状態、遺言内容、本人の理解や作成経過等を合わせて検討します。
公正証書にすれば能力を争われる心配はありませんか
争いがなくなる保証はありません。公証人が関与する方式でも、作成時の能力が後に問題となることがあるため、医療資料と本人の説明の経過も残します。