家族信託の赤字は確定申告で引けるか 信託ごとの計算と修正

税額の計算を確かめる資料と計算機

家族信託に入れた賃貸物件で赤字が出ても、その赤字を給与や信託外の賃貸物件の黒字から引けるとは限りません。個人の受益者について、信託から生じた不動産所得の損失を「生じなかったもの」とする特則があるためです。

確定申告の準備では、物件ごとの記録をまず信託ごとにまとめ、別の信託や信託外の収支と区別します。通帳の現金不足と税務上の赤字も分け、申告書へ移す前の照合を進めましょう。

この記事でわかること
  • 別信託や信託外の黒字へ赤字を移せない理由
  • 同じ信託内の二物件を含む収支の集計例
  • 現金の支出と税務赤字の違いや誤申告の点検
目次

信託の損失は別信託や信託外の黒字から引けない

提出書類を照合するための紙資料と筆記具

国税庁は、信託の受益者である個人に生じた一定の不動産所得の損失について、他の不動産所得の黒字から差し引けず、他の所得との損益通算の対象にもならないと案内しています。

つまり、父が受益者として持つ信託の賃貸物件で40万円の損失があっても、父が信託せずに持っている別物件の黒字100万円を60万円へ減らす計算にはできません。給与から引けないだけでなく、不動産所得の中でも区分が必要です。

信託した不動産の名義を子が持つ場合も、子の給与から父の信託の赤字を引けるという意味ではありません。一般的な受益者等課税信託では、利益を受ける受益者に所得が帰属する仕組みを踏まえ、その受益者個人の所得として扱いを確認します。

この制限は、信託財産からのあらゆる損失を一律に同じ扱いにするという説明でもありません。本稿は、個人の受益者が持つ信託に係る不動産所得の損失を対象にします。法人課税信託や他の所得種類を含む複雑な契約には、そのまま当てはめないでください。

同じ信託と別の信託を収支表で区別する

取引記録を保管するファイルと資料

損失の計算をする際は、賃貸アパート一棟ごとの帳簿だけで結論を出さず、どの信託に属するかを契約書で確かめます。同じ信託内の複数物件の収支と、別の信託の収支を混ぜないためです。

物件別の記録を信託別へ集計する

仮に、父が全ての利益を受ける個人の受益者で、信託Aには甲・乙の二物件、信託Bには別の物件を入れ、父自身が信託外でも一物件を持つとします。各金額は税務上の収入と経費を確認した後の所得計算とし、家賃収入そのものや口座残高ではありません。

区分仮定した所得計算確認する扱い
信託Aの甲物件80万円の黒字同じ信託Aの乙と合わせてA全体を計算
信託Aの乙物件120万円の赤字甲との合計は40万円の赤字
信託Bの物件70万円の黒字信託Aの赤字を引いて30万円にしない
父の信託外の物件100万円の黒字信託Aの赤字を引いて60万円にしない

信託Aでは甲と乙を合わせて40万円の損失となり、この損失に特則が適用されます。信託Bの70万円と信託外の100万円は、この40万円を引かずに扱います。ほかの調整を置かない本例では、両者の黒字の合計は170万円です。

一方、同じ信託Aの甲が150万円の黒字、乙が120万円の赤字なら、A全体では30万円の黒字となります。甲と乙を別々の信託として設けた場合とは結果が異なります。受託者が同じ人だから、別々の契約も一つにしてよいということではありません。

実際には、信託に複数の受益者がいる場合や、年の途中で受益者・対象財産が変わる場合もあります。単に契約書の冊数だけで集計単位や帰属額を決めず、税法上の信託の単位と権利内容を税理士へ確認してください。

国税庁は、信託から不動産所得がある人について、信託ごとに収支に係る一定の明細書を確定申告書へ添付することも案内しています。物件番号と信託名を対応させた資料を作れば、添付資料と申告数値の行き違いを防げます。

修繕代や借入返済を税務の費用へ直す

送金と受領を確かめる口座の資料

通帳の残高が減ったことと、税務上の必要経費が収入を上回ったことは同じではありません。借入元本の返済や親への生活費の給付など、口座から出てもそのまま経費にはならない支出があります。

逆に、減価償却費はその年の口座から同額が出なくても所得計算に関わります。信託を始める前の取得時資料、建物と土地の区分、過去の償却明細を引き継ぎ、管理会社の入出金報告だけで申告計算を終えないようにします。

支出や記録税務資料へ直す際の確認
借入れの返済元本と利息を分け、利息の対象財産も確かめる
修繕や設備交換修繕費か資本的支出かを内容と資料から判断
受益者への生活費送金受益者への給付と不動産業務の費用を区別
建物の減価償却取得時資料と償却明細を継続して確認
敷金の受取りや返還預り金等の性質を確かめ、家賃と混ぜない

工事の請求書に「修繕」と書かれていても、価値を高めたり使用期間を延ばしたりする内容なら、資本的支出の検討が必要です。工事全額をその年の経費として赤字を計算してよいかは、見積書、施工内容、支払記録を組み合わせて判断します。

親への生活費給付は必要経費と分ける

父が受益者なら、父へ生活費を渡す行為は信託の目的に沿う給付でも、それだけで賃貸業務の必要経費になるわけではありません。信託の帳簿上どう記録するかと、所得税で何を経費にするかを区別します。

修繕により現金が足りない場合は、納税に使える現金も別に確保する必要があります。赤字だから税金が必ず戻るという前提で、残った金銭を全て親の生活費へ送らないよう、税額と管理資金の見通しを税理士と共有してください。

申告前の照合と申告後の訂正を分ける

贈与の合意を記録する契約書類

申告前なら、物件別帳簿、信託ごとの集計、添付明細、受益者の確定申告書の順に数字を照合します。赤字をそのまま別物件の黒字へ差し引いた箇所がないかを確かめます。

申告ソフトに数字を入れた結果だけで適用の正しさを判断しないことも必要です。信託の区分が分からないまま一般の賃貸物件として登録すれば、意図しない通算結果になるおそれがあります。どの入力や明細が特則に対応するかを確認してください。

既に申告して誤りに気付いた場合は、前年の申告書を消したり、翌年だけ帳尻を合わせたりしないでください。元の申告書と誤りの根拠、正しい集計を示し、期限内の訂正や、期限後の修正申告・更正の請求等のどれが必要かを税理士へ確認します。

この特則で生じなかったものとされる損失を、通常の青色申告の純損失として翌年へ繰り越すことはできません。過去の誤った通算だけでなく、繰越欄にも影響がないかを確認します。

受託者が提出する信託の計算書等と、受益者がする確定申告は別の手続です。赤字だから両方とも一律に不要とせず、提出義務の条件と担当者をそれぞれ確かめ、提出控えを保管しましょう。

契約書ごとに対象物件へ番号を付け、物件別の収支と取得時資料をまとめてください。信託ごとの所得計算と親個人の申告を分けて確認することが、赤字を誤って転記しないための出発点です。

手続きの状況や相談したい内容を整理する際は、相続の相談窓口もご利用ください。

よくある質問

疑問点を調べるための本とメモ

信託不動産の赤字を父の給与から引けますか

個人の受益者に生じた信託に係る不動産所得の損失には、他の所得と通算できない特則があります。信託外や別信託の不動産の黒字からも差し引けません。

同じ信託に入れた二物件も別々に損失を切り捨てますか

物件ごとの記録を、税法上の信託の単位に従って集計します。同じ信託内の収支と別信託の損失を区別し、契約内容を税理士へ示して確認してください。

生じなかったものとされる損失を翌年へ繰り越せますか

この特則の対象となる損失を通常の純損失として翌年へ繰り越すことはできません。既に申告した場合は通算欄と繰越欄の双方を点検します。

相続対策について問い合わせる
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次