遺留分侵害額が確定した後の相続税 更正の請求と修正申告の進め方

相続税を申告した後に遺留分侵害額が確定した場合は、支払う人と受け取る人の課税価格を見直します。
支払う側は更正の請求、受け取る側は期限後申告や修正申告の検討が必要になることがあります。
支払う側の更正の請求には、金銭の額が確定したことを知った日の翌日から4か月以内という特則があります。
合意できた金額だけでなく、その合意がいつ成立したかを示す資料を残しておくことが重要です。
- 金額が未確定の段階と確定した後の申告を区別できる
- 支払う側と受け取る側で必要な税務手続きがわかる
- 4か月の期限と代物弁済の注意点を確認できる
遺留分の金額が確定すると相続税の再計算が必要になる

請求した段階と支払う金額が確定した段階を分ける
遺留分侵害額請求は、遺留分を侵害された人が、贈与や遺贈を受けた人に金銭の支払いを求める仕組みです。
2019年7月1日以後に開始した相続では、この金銭請求の制度が原則となります。
古い相続の遺留分減殺請求は制度が異なるため、以前の解説をそのまま当てはめないでください。最初に相続開始日と、今回の請求がどちらの制度かを確認します。
申告時に未確定なら請求がないものとして計算する
相続税の申告時に支払額が確定していない場合は、原則として、その事由がないものとして課税価格を計算します。
請求通知に希望額が書かれていても、当然にその額を控除して申告できるわけではありません。
合意や裁判等で支払う金銭の額が確定すると、各人の取得内容が変わり、税務上の見直しを検討する段階になります。
金額の確定と実際の振込みの日が異なることにも注意してください。
支払う側は更正の請求の期限を確認する

確定を知った日の翌日から4か月以内の特則
遺留分侵害額の確定により自分の課税価格や相続税額が過大となった人は、相続税法の特則に基づく更正の請求を検討します。
期限は、その確定という事由が生じたことを知った日の翌日から4か月以内です。
支払いを分割にしている場合でも、各回の振込日から4か月ずつ延びると考えないようにします。
合意書の成立日、調停の成立日、判決の確定日等の資料から、起算点を確認します。
合意書や裁判書類で起算日を確認する
当初の評価誤りなどについては、法定申告期限から原則5年以内という通常の更正の請求を検討することがあります。
しかし、遺留分の確定という後発の事情による4か月の特則とは、理由と要件が異なります。
「申告から5年以内だから、遺留分の手続きも急がなくてよい」とは判断しないでください。
もともとの計算誤りも見つかった場合は、どの理由でどの期限の請求を行うかを税理士へ確認します。
受け取る側は申告や修正申告の要否を調べる

受取額だけでなく他の取得財産も再計算する
受け取る側は、遺留分により増えた取得額と、すでに相続や遺贈等で取得した財産を合わせて再計算します。
もともと申告していなかった人と、すでに申告していた人では、検討する手続きが異なります。
申告が必要かの入口は相続税がかかる基礎控除と財産の確認です。
ただし、遺留分の確定でほかの人の税額や特例にも影響が及ぶため、受取額だけを税率表に当てはめて済ませないようにします。
支払側の還付が受取側の税額に影響する場合がある
相続税には、ほかの人の更正の請求に応じて、その人以外の税額の更正等が行われる特則もあります。
当事者間で税金相当額を精算したから、税務署への手続きが不要になると一律に考えてはいけません。
支払う側だけ、受け取る側だけで資料を持つより、申告書と確定資料を双方の税務担当へ渡しておく方が、食い違いを把握しやすくなります。
金銭以外の財産で支払うと譲渡税の問題も生じる

代物弁済は相続税だけでは終わらない
現金を用意できず、不動産や株式を渡して遺留分の支払債務を履行する場合は、代物弁済として譲渡所得が生じることがあります。
相続した財産をそのまま渡す場合も、税務上の確認が必要です。
原則として、消滅する債務の額に相当する価額で資産を譲渡した扱いとなるため、元の取得費等によって譲渡益が生じます。
合意前に、相続税の還付と譲渡所得税の負担を分けて試算します。
小規模宅地等や配偶者軽減も再点検する
遺留分の請求に基づき取得した宅地に、受け取る側が当然に小規模宅地等の特例を使えるとは限りません。
金銭請求権の性質や、元の取得者の特例への影響も確認します。
配偶者の税額軽減など、各人の取得額によって変わる制度も点検します。
単に財産の評価額を移し替えるだけでなく、誰にどの控除や特例が適用されるかまで再計算が必要です。
申告期限前から決着後まで資料を一つに残す

紛争中でも相続税の申告期限は延びない
遺留分で争っていても、すでに取得した財産に係る相続税の申告期限が当然に延びるわけではありません。
未確定の部分をどのように申告へ反映するかは、期限前に整理します。
相続人全員が同じ状況とも限りません。金銭債権が未確定の請求者についての扱いと、遺贈された財産を保有する人の申告を分けて確認してください。
遺言と申告書と合意書を税理士へ渡す
税理士へ渡す資料は、遺言書、相続税申告書、財産評価の明細、遺留分の請求書、合意書や裁判書類、支払記録です。確定の経過が分かる連絡も残しておきます。
金額が決着した時点で、税務の手続きは誰がいつ行うかを決めてください。
解決までの交渉を担当した弁護士と税理士が、確定日と支払方法を共有できるようにするのが、最初に行いたい対応です。
よくある質問

遺留分を請求された時点で相続税を減らせますか
請求された額が未確定なら、原則としてその請求がないものとして課税価格を計算します。支払う金銭の額が確定した後に、更正の請求などを検討します。
更正の請求の4か月は振込みの日からですか
原則として、支払うべき金銭の額が確定したことを知った日の翌日からです。実際の振込日と一致するとは限らないので、合意や裁判の資料で確認します。
遺留分を不動産で支払っても税金は同じですか
同じとは限りません。金銭債務の代わりに不動産を渡すと、支払う側に譲渡所得の課税が生じることがあるため、合意前の試算が必要です。