相続した借金に時効は使えるか 返済や署名前に確認すること

親の死亡後に古い借金の督促が届いた場合、時効を援用できる可能性があります。ただし、『最後の返済から5年たった』という一つの事情だけで、支払いが不要と判断することはできません。契約の時期、弁済期、裁判、返済や承認を調べます。
一部を払う、支払う約束に署名するなどの行為は、時効の主張に影響します。一方で、裁判所の書類は放置できません。書類の回答期限と、相続放棄を検討する原則3か月の期間を並行して確認してください。
督促に返事をする前に借入れと返済の記録を確認する

督促が届いたら、請求している会社、元の債権者、契約番号、元金や利息を確認します。聞き慣れない会社名でも、債権譲渡等の経緯があるかを資料で調べます。
最後の返済日だけでなく契約日と弁済期を見る
契約した日、返済期限、最後に返した日、期限の利益を失った日などを区別します。借入れと返済を繰り返していた場合は、手元のハガキ一枚だけでは履歴が分からないことがあります。
親が亡くなった日から時効の計算が始まるわけではありません。借金自体の履歴と、相続したことを知った日を、別の時系列にします。
裁判所の書類があれば回答期限を先に守る
訴状や支払督促、判決などがある場合は、裁判手続きの期限を先に確かめます。時効がありそうだから裁判所からの通知を無視する、という対応は避けてください。
借金の内容を認める返事を急ぐことと、裁判の期限内に必要な対応をすることは別です。原本や封筒を保管し、到着日を記録して早めに弁護士等へ相談します。
時効期間は契約の時期と裁判手続きで変わる

時効の期間は、どの法律と経過措置が適用されるかによって変わります。『親の借金は全て5年』という一律の説明では足りません。
現行法の5年と10年を借主死亡から数えない
現行民法には、債権者が権利を行使できることを知った時から5年、権利を行使できる時から10年という基準があります。2020年4月より前の契約等には旧法が適用される問題もあります。
誰から借りたかだけでなく、契約や債権発生の時期、返済期等を確認します。時効の起算点と期間の両方を特定してから、経過した年数を計算します。
判決や支払督促による権利確定を調べる
確定判決等で権利が確定している場合には、短い時効期間が10年となる規定があります。督促の書面に債務名義の記載があれば、その裁判資料を調べてください。
請求の手紙だけで一律に時効が最初からやり直しになるわけでもありません。通常の催告による完成猶予と、裁判等による効果を分けて確認します。
一部返済や支払約束は時効の主張に影響する

請求を受けて『少しだけなら払う』と返事をすると、債務を認める行為として評価されることがあります。金額の少なさだけで影響がないとは判断できません。
少額だけ払えば安全とは考えない
時効が完成する前の権利の承認には、時効の更新が問題になります。既に完成した後の支払いや承認についても、後から援用できるかが問題となります。両者を同じ仕組みと決めつけないことが必要です。
時効を知らなかったから全ての支払いが無関係になる、というものでもありません。相手とのやり取りや認識等を含めて、個別に検討します。
債務を認める署名や電話の内容を残す
分割払合意書、返済猶予の申込書、電話やメールでの発言などを残します。家族が代わって返事をした場合も、誰がどの権限で何を伝えたかを確認します。
既に返済したり署名したりしていても、資料を持参して相談してください。都合のよい説明に直さず、日時と内容を正確に伝えることが、判断に必要です。
時効援用と相続放棄は対象と期限が違う

時効援用は、要件を満たす特定の借金について時効の利益を主張するものです。相続放棄は、財産と負債を含めて相続人の地位から外れる手続きで、対象が違います。
時効援用はその借金について主張する
時効援用ができても、別の会社への借金や保証債務まで全てなくなるとは限りません。一件の督促だけを見て、相続した負債全体が解決したと考えないでください。
相続人が複数いる場合も、一人の援用が他の人の全ての承継債務へ当然に及ぶとは限りません。各自の立場と負担する部分を確認します。
相続放棄は遺産と負債全体から外れる
相続放棄は原則として、自分のために相続が始まったことを知った時から3か月以内の申述を確認します。時効の調査中だからと、その期間を放置しないでください。
財産や負債が未確認なら、熟慮期間の伸長も含めて相談します。時効援用の行為と単純承認の関係が問題となる場面もあるため、両方を検討できる状態なら順序を専門家と決めます。
まだ取引先や財産の全体が分からないときは、親の財産や負債の照会先を整理する方法も確認します。時効を検討する借金以外に、保証や未払金が残っていないかを調べます。
| 比べる点 | 時効援用 | 相続放棄 |
|---|---|---|
| 対象 | 要件を満たす個々の債務 | 相続人としての地位と相続全体 |
| 確認する期間 | 契約・弁済期・裁判等に基づく時効 | 原則自己のため相続開始を知ってから3か月 |
| 他の借金 | 一件の援用で全て解決するわけではない | 有効な放棄なら原則相続債務を承継しない |
| 財産との関係 | 財産の取得を当然に放棄する手続きではない | プラス財産だけ取得することは原則できない |
通知の相手と相続人ごとの持分を確認して対応する

資料から時効の主張を検討できたら、どの債務について誰へ意思表示するかを決めます。通知のひな型を送れば、契約や裁判の確認が不要になるわけではありません。
業者名と債権譲渡の経緯を確かめる
債権が譲渡されている場合は、現在の請求者と元の借入先の関係を確かめます。債務を特定する情報と通知先を誤らないよう、請求書と履歴を照合します。
書面での通知を行う場合は、内容と到達の記録を残します。既に訴訟等が進んでいれば、相手へ郵便を送るだけで裁判への対応まで済むとは考えないでください。
複数の相続人がいる場合も他人任せにしない
ほかの相続人と情報を共有する場合も、各人が行った支払い・返答・手続きを確認します。連名の通知で対応できるか等は、負担の内容と手続きの状況から検討します。
最初に督促状、契約、返済履歴、裁判書類を並べてください。支払いを約束する前に、借金の時効と相続放棄の両方を確認することが、選択肢を保つために役立ちます。
よくある質問

親が亡くなってから5年たてば借金は時効ですか
死亡日から一律5年ではありません。契約時期、弁済期、返済や承認、裁判等を調べて時効の期間と起算点を確認します。
少額を返しただけでも影響しますか
影響する可能性があります。時効完成前の承認による更新と、完成後の支払い等による援用への影響を分け、具体的な経緯から検討します。
時効の可能性があるなら支払督促を無視できますか
無視しないでください。裁判所の書類には対応期限があり、必要な異議や訴訟上の主張を確認する必要があります。届いた書類をそのまま専門家へ示してください。