遺産分割を公正証書にする準備 代償金と執行認諾の範囲

遺言の原本と照合用の資料を重ねて確認するイメージ

実家を一人が取得する代わりに、ほかの相続人へ代償金を分割払いする。その約束を公正証書にするなら、支払う額と期日を決め、執行認諾がどの債務に及ぶかまで確かめます。

300万円を25万円ずつ12回で払う仮定例を使い、公証人へ渡す相談原稿と資料を整理します。合意前の準備を中心に、不動産の取得条項との違い、作成後に必要な支払記録まで説明します。

この記事でわかること
  • 不動産の取得と執行できる金銭債務の違い
  • 分割払いの金額・期日と遅れた場合の相談項目
  • 本人・代理の資料と作成後の保管や入金記録
目次

代償金の支払いと不動産取得の条項を分ける

送金と受領を確かめる口座の資料

実家を長男が取得し、長女へ代償金300万円を払う。こうした遺産分割を公正証書にするときは、「実家を誰が取得するか」と「誰が誰へいくら払うか」を分けて準備します。公正証書にしたという理由だけで、記載した約束の全てを直ちに強制できるわけではありません。

民事執行法22条5号の執行証書となるのは、一定額の金銭の支払い等を目的とする請求について、債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載又は記録された公正証書です。ここでは代償金の支払義務を扱い、不動産の登記や家の明渡しを同じ直接執行の対象とはしません。

合意へ入れる事項公証人等へ確認すること
長男が実家を取得する物件の表示、取得者、登記の手続きと時期
長男が長女へ300万円を払う金銭債務の特定と、強制執行認諾の対象
家財の搬出や家の引渡し期限と方法。金銭債務と同じ執行力があるとは考えない

以下の金額と回数は説明用の仮定で、そのまま署名する契約のひな形ではありません。家族がまだ分け方に合意していない場合、公証人に案を持ち込めば一方の希望どおりに決めてもらえる制度でもありません。争いのある点は先に弁護士へ相談します。

300万円の支払条件を金額と期日と遅延に分ける

税額の計算を確かめる資料と計算機

「毎月、払えるだけ払う」では、いついくら払う義務なのかが定まりません。公証人へ渡す原稿には、総額だけでなく各回の金額と具体的な期日、送金方法、既に払った額があるかを示します。

相談原稿の項目300万円の説明例と残す確認
支払う人と受け取る人長男から長女へ。実際の氏名・住所を本人資料と照合
総額と各回の金額300万円を25万円ずつ12回。25万円×12回=300万円
各回の期日開始日と12回全ての期日を一覧にし、休日の扱いも相談
振込先と手数料誰名義の口座へ送り、振込手数料を誰が負担するか
遅れた場合遅延損害金の対象額・開始日・割合、残金の期限をどう扱うか

12回払いにしても、長男の収入や手持資金で毎回25万円を支払えるかは別の確認です。初回の入金と登記用書類の交付をどう組み合わせるか、担保を付けるかも、取得する実家の状況と合わせて相談します。公正証書自体が支払原資を用意するわけではありません。

期限の利益を失う条件と到達の証拠を相談する

分割払いでは、各期日まではその分の支払いを待ってもらえる取決めになります。遅れたときに残額をまとめて請求する「期限の利益の喪失」を定めるなら、一度の遅れでどうなるか、催告が要るか、どの時点で残額の期限が来るかを具体化します。

催告等を条件にする条項では、その条件が満たされたことを示す資料が問題になります。民事執行法27条は、債権者が証明すべき事実の到来に請求が係る場合の執行文付与について、証明する文書又は電磁的記録を求めています。便利そうな文言を写すだけにせず、将来どの通知や到達記録を残す必要があるかまで、公証人へ尋ねてください。

執行認諾の対象と公証人へ示す資料を確かめる

取引記録を保管するファイルと資料

執行認諾は、支払義務を負う人の意思を確認するものです。長女が自分の希望だけで付け加えたり、家族の連絡役が当然に長男の代わりに認めたりすることはできません。本人が手続きするか代理人によるかを、案の確認段階で伝えます。

資料のまとまり公証人へ示す内容
相続関係と遺言故人と相続人の戸籍等、遺言の有無、参加すべき人
対象の財産不動産の登記事項、評価資料、関係する預金等の明細
協議案と支払予定実家の取得条項、300万円の債務、12回の期日一覧
本人確認と代理当事者の本人確認資料、代理の場合の権限と委任内容

これは相談資料の整理例で、必要書類の確定一覧ではありません。誰のどの本人確認資料が必要か、委任状へどの案を添えるかなどは、作成を依頼する公証役場の案内で確認します。銀座公証役場は、代理による作成の可否と委任状のほか、自己代理や双方代理ができないことも案内しています。

私署の遺産分割協議書に署名し、その署名を認証してもらう手続きは、公証人が執行証書となる公正証書を作成する手続きと同じではありません。「公証役場で確認した書類」という呼び方で済ませず、何を作成・認証する依頼なのかを確かめます。

公正証書の保管と支払記録を将来の執行へつなぐ

提出書類を照合するための紙資料と筆記具

完成したら、長男と長女が金額・期日・認諾の対象を読み直し、公正証書の正本等をどう受け取り保管するか確認します。電磁的記録による作成もあるため、紙だけを前提にせず、交付や保存の方法を公証役場へ尋ねてください。

支払いを始めた後は、各回の期日、予定額、着金日、実額、残額を記録します。最初の3回で25万円ずつ入れば、元本の支払済み額は75万円、残元本は225万円です。利息や遅延損害金、途中の合意変更があれば別に示し、残額だけを上書きしないようにします。

不履行時にも公正証書から自動で引き落とされるわけではありません。執行文の付与、必要な送達、裁判所への強制執行の申立て、差し押さえる財産の確認は別に進めます。公証人には作成時に送達等を相談できるため、どの手続きを済ませ、何が残るかを控えておきます。

相手に回収できる財産がなければ、執行証書があっても全額を回収できるとは限りません。合意前に支払原資と財産の状態を確かめる作業には、親の財産の調べ方 預貯金や不動産の照会先と必要書類も参考になります。既に支払いが止まっている場合は、完成した証書全文と入金記録を持って、使える手段を弁護士へ相談してください。

手元の資料と未確認の点を整理して相談する際は、相続サポートの相談窓口をご覧ください。

よくある質問

疑問点を調べるための本とメモ

遺産分割の公正証書があれば家の名義も直接変えられますか

公正証書の証拠としての役割と、執行証書による直接執行の範囲は別です。一定の金銭債務等と認諾の要件を確認し、不動産登記や明渡しは別の手続きとして準備します。

300万円を毎月払うとだけ書けば足りますか

総額に加え、各回の金額と期日、振込先、手数料、遅れた場合の条件を具体化します。例の25万円12回は説明用で、実際の条項と支払能力は公証人や弁護士へ確認します。

執行認諾があれば不払い分は自動で回収されますか

自動回収ではありません。執行文や送達等を整えて裁判所へ申し立て、差押対象も確認します。作成前に支払原資や担保を検討し、作成後は入金記録を残します。

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