遺産分割協議書の書き方 不動産と預金の記載例や押印の確認点

父の口座は姉が引き継ぎ、実家は弟が取得する。家族の話し合いがまとまったら、次はその内容を遺産分割協議書に残します。
書式を埋めるだけでは、銀行で払い戻せない、不動産の登記が進まないといった行き違いが起こります。大切なのは、相続人を漏らさず確認し、どの財産を誰が取得するかを読み違えない形で書くことです。
ここでは一般的な協議書の構成と、不動産・預金の記載例を説明します。押印する前に提出先の条件まで照合すれば、家族の合意を実際の手続きにつなげられます。
- 遺産分割協議書を作る前に確認する相続人と財産
- 不動産と預金を特定する書き方と独自の記載例
- 署名押印から名義変更までの確認事項と期限
遺産分割協議書を書く前に相続人と対象財産を確定する

一部の相続人だけで決めた内容では手続きを進められない
遺産分割協議には相続人全員の合意が必要です。親と同居していた子だけで話をまとめても、ほかに相続人がいれば、その人を除いた協議を有効な分割として扱うことはできません。
相続人は記憶や家族の呼び方で判断せず、出生から死亡までの戸籍などで確認します。前の婚姻で生まれた子、養子、先に亡くなった子の子が関係することもあります。相続放棄をした人がいる場合は、その結果を含めて参加者を整理してください。
併せて遺言書の有無を調べます。有効な遺言がある場合は、その内容と遺言執行者などの関係を確認してから、協議が必要な財産と手続きを判断します。
未成年者や意思確認が難しい人の署名を家族が代わりにしない
母と未成年の子がともに相続人になる分割では、母と子の利益が対立するため、原則として家庭裁判所で子の特別代理人を選ぶ手続きが必要です。「子のためになる分け方だから」と、親が当然に子の分も署名できるわけではありません。
認知症などで本人が合意の意味を判断できない場合や、相続人の所在がわからない場合にも、必要な制度や手続きを先に確認します。書類がそろうことと、有効な同意が得られることは別です。
財産がまだつかめていなければ、親の財産がわからないときの調べ方をもとに一覧を作ります。不動産や口座が抜けたまま押印すると、後で追加の協議が必要になります。
協議書には亡くなった人と財産を取得する人を明記する

氏名と最後の住所などで被相続人を特定する
冒頭では亡くなった人の氏名、死亡日、最後の住所、最後の本籍などを記載します。戸籍や住民票の除票と照合し、同姓同名の別人や別の相続と混同しない情報をそろえます。
その後に、相続人全員で協議した結果として、財産ごとの取得者を条文にします。末尾には協議成立日、各相続人の住所と氏名、押印欄を設けます。話し合いの途中の日を、成立日として先に入れないようにしましょう。
| 部分 | 記載する内容 | 照合する資料 |
|---|---|---|
| 冒頭 | 被相続人の氏名・死亡日・最後の住所など | 戸籍、除票など |
| 本文 | 財産の表示、取得者、必要な支払条件 | 登記事項証明書、残高証明書など |
| 末尾 | 成立日、相続人全員の住所・氏名・押印 | 本人確認資料、印鑑登録証明書など |
パソコンで作成できるが提出先の確認は省かない
遺産分割協議書は、自筆証書遺言のように本文全体の手書きが求められる書類ではありません。パソコンで作成し、財産一覧を別紙にする方法もあります。
ただし、様式が自由であることと、登記や銀行の手続きに必要な記載がそろっていることは同じではありません。押印後に書き直さないためにも、完成前の案を司法書士や金融機関に見せ、必要な項目を確認します。
不動産は住所ではなく登記事項に合わせて記載する

土地の地番と建物の家屋番号を区別する
「父の実家を弟が相続する」だけでは、対象不動産を十分に特定できません。土地は所在・地番・地目・地積、建物は所在・家屋番号・種類・構造・床面積などを、現在の登記事項証明書に合わせて記載します。
郵便物に使う住所と、登記上の地番は一致するとは限りません。庭や進入路が別の土地になっていることもあるので、家のある一筆だけを見て終えないことも大切です。
分譲マンションなら、専有部分に加え、一棟の建物や敷地権の表示なども確認します。共有不動産は、亡くなった人が所有していた持分を対象にします。母の持分まで父の遺産として書くことはできません。
代償金を払う分け方では金額と期限まで合意する
実家を弟が取得し、姉には弟の預金から一定額を支払うなら、実家の取得者だけでなく、代償金の金額、支払う相手、支払期限、振込方法を明確にします。資金の準備ができるかも、押印前に確認してください。
売却して代金を分ける換価分割では、誰が売却を進め、費用をどう引き、残額をどの割合で分けるかが論点です。単独で取得してから気軽に送金すると、合意した分割の実行なのか、取得後の贈与なのかが不明確になります。
母がすべて取得する案を検討している場合も、書式に進む前に母に全部相続させる場合の二次相続と分け方を確認し、次の相続まで含めて決めます。
預金は口座の特定と実際の払い戻し方をそろえる

金融機関と支店名に加えて口座種別と番号を書く
預金は、金融機関名、支店名、口座種別、口座番号、名義人を確認します。普通預金と定期預金をまとめて「銀行のお金」と記載すると、どの口座の取得を決めたのか読み違える余地が残ります。
特定の口座の全額を取得する場合、必ずしも残高そのものを条文に固定する必要はありません。死亡時の残高は相続税の資料として確認し、払い戻し時の利息や残額を誰が取得するかは別に定めます。
預金を一人が取得する記載例
相続人【取得者の氏名】は、被相続人【氏名】名義の【金融機関名】【支店名】の【口座種別】口座番号【番号】に係る預金を、解約時までに生じた利息を含めて取得する。
これは本記事が作成した一条文の例です。【 】を実際の資料に置き換えます。協議書全体を完成させるひな形ではなく、口座の範囲や分け方によって調整が必要です。
代表者が受け取って分配する場合は割合と送金を決める
複数の口座を代表者が解約し、その後に家族へ送金する方法では、誰が何割を取得するかと、誰が代表して手続きをするかを分けて書きます。全額を一人の取得と書いてしまうと、後の分配について説明が必要になります。
解約や払い戻しの権限、分配の期限、利息、振込手数料なども確認します。銀行所定の相続届や委任欄が別に必要な場合があるため、協議書だけですべての手続きが済むと考えないでください。
全員が同じ内容を確認してから署名と押印をする

実印と印鑑証明は提出先の本人確認に関わる
遺産分割は相続人全員の合意があって成立します。実印を押すことだけが、合意成立の条件になるわけではありません。一方、相続登記や銀行で協議書を使う実務では、全員の実印や印鑑登録証明書を求められることが一般的です。
そこで、氏名は各人が署名し、住所を証明書と照合し、実印で押印する準備をします。海外在住者がいる場合は、署名証明などの扱いを提出先に確認してください。
郵送で回す場合も完成版と原本の保管先を決める
全員が一つの場所に集まる必要はありません。ただし郵送するときは、全員が同じ完成版を読み、意見の違いが解消した後に署名します。途中で条文を変えた版と変えていない版が混在しないよう、日付や別紙も照合します。
複数ページなら、綴じ方や契印によって差し替えを防ぐ方法を確認します。原本は家族の保管用と提出用を考えて必要部数を用意し、銀行や法務局での原本還付も確認します。
取得者や金額などの重要な間違いが見つかった場合は、修正液で隠さず、全員の合意を確認して正しい書面を作り直す方がわかりやすくなります。提出先ごとの訂正方法にも従ってください。
完成後は登記と銀行の手続きに進み申告期限を確認する

協議の成立を待っても相続税の期限は延びない
協議書は合意の記録であり、作成しただけでは不動産や預金の名義は変わりません。取得した人が、戸籍や評価資料などを添えて、それぞれの窓口へ手続きします。
相続税の申告が必要なら、原則として相続の開始を知った日の翌日から10か月以内が申告・納付期限です。話し合いが終わっていないことだけで、この期限が延びるわけではありません。
不動産の相続登記には、相続の開始と所有権の取得を知った日から3年以内という基本の義務があります。遺産分割が成立した場合は、分割成立日から3年以内に分割内容を反映する登記をする義務もあります。先に相続人申告登記をした場合も、分割後の義務を別に確認します。
後から財産が見つかったときは既存の条文を確認する
後で口座が見つかった場合は、協議書にその財産まで含めて有効に分割する条項があるかを確認します。対象に含まれていなければ、追加の協議と書面が必要になることがあります。
新たな財産の分割と、すでに取得した財産を家族へ渡し直すことは別です。成立済みの分割を変える場合には贈与税などの扱いが問題になるため、署名し直せば最初からやり直せるとは考えず、税務と法律の両面を確認します。
借金を一人が負担すると家族で決めても、債権者の同意などがなければ、その合意を理由にほかの相続人が当然に支払責任を免れるわけではありません。負債の配分は、家族内の負担と債権者との関係を分けて相談してください。
押印前は財産一覧と条文を一行ずつ照合する
完成した案は文章の誤字だけでなく、財産の一覧と対にして読みます。一覧にある財産が協議書でどこへ行くのか、協議書に書いた財産が本当に親の所有だったかを、両方向から確認してください。
例えば、土地と建物を弟へ渡すつもりでも、土地の条項だけで建物が抜けていれば、実家全体の取得を明確にできません。銀行名が正しくても、定期預金を別口座として持っていた場合は、その口座の扱いも必要です。個別の資料で確認すると、家族の思い込みによる漏れを見つけやすくなります。
| 確認事項 | 読み合わせる内容 |
|---|---|
| 対象財産 | 一覧にある土地 建物 口座などと条文の対応 |
| 取得者 | 各財産を誰がどの割合で取得するか |
| 支払い | 代償金の支払者 金額 期限と資金の準備 |
| 代表者の役割 | 取得者なのか解約や送金だけを担当するのか |
| 完成版 | 成立日 署名欄 別紙とページの一致 |
読み合わせで質問が出たなら、署名を急がず、意味を確認してから案を直します。専門家が作った案でも、家族がどの財産を得て何を支払うのか理解しないまま押印すると、後の送金や名義変更で対立が残ります。
海外在住者や遠方の相続人がいる場合は、手元へ届く完成版と提出先の本人確認資料を先にそろえます。一人が古い版へ押印した後に、別の人が変更版へ署名するような進め方は避けてください。別紙を含む全体を送って、どの版に合意したかがわかる形にします。
最後に、完成後の担当を決めます。協議書を誰が銀行へ出し、誰が登記を依頼し、代償金の振込記録をどこへ保管するかまで決めておくと、合意を実行へ移せます。相続税の申告資料として必要な控えも、原本を提出する前に確保しましょう。
遺産分割協議書のよくある質問

遺産分割協議書はパソコンで作ってよいですか
作成できます。自筆証書遺言とは要件が異なります。署名押印や添付書類は、登記や銀行などの提出先に確認してください。
相続人全員が集まって署名しなければいけませんか
同席は必須ではありません。郵送する場合も、全員が同じ内容に合意した完成版に署名押印します。
一人が合意していなくても協議書は使えますか
その人を除いた合意を有効な遺産分割として使うことはできません。協議が難しい場合は、家庭裁判所の調停などを検討します。