事業承継で株式を分散させない方法 遺留分と経営権の対策

子に社長を任せることと、その子が安定して会社の意思決定をできることは別です。株式を相続人へ均等に分けた結果、会社を継ぐ子が必要な議決権を持てなくなることがあります。
対策は後継者へ株式を集めるだけでは終わりません。他の家族へ何を残すか、遺留分に対応する資金をどう準備するか、既に分散した株式を買う費用まで含めて考えます。
- 代表者の交代と株式や議決権の承継の違い
- 遺言や生前移転や種類株式を選ぶときの注意点
- 遺留分の除外合意と固定合意の条件
まず株主と議決権を確認して経営権の不足を調べる

株式は会社の利益を受ける権利だけでなく、株主総会の議決権にも関わります。代表取締役に就任しても、他の株主の意向によって重要な決議ができない可能性があります。
株主名簿と実際の所有者を照合する
親族や元従業員の名義が残っていれば、その株式を実際に誰が所有するか確認します。名義を借りただけだという記憶だけで後継者へ移さず、取得時の契約や出資の記録を調べます。
株券を発行する定め、譲渡制限、種類株式の内容も確認します。株主の人数や株数だけでなく、議決権のある株式が誰にどれだけ帰属するかを一覧にしてください。
過半数や3分の2という数字は決議要件と一緒に読む
通常決議や特別決議では、定足数や出席株主の議決権に関する要件があります。単に発行株式の過半数や3分の2を持てば、全ての決議を必ず自由にできると断定しないでください。
定款での別段の定めや種類株主総会の要否も影響します。予定する重要な決議と株主構成を示して、必要な議決権を弁護士等へ確認します。
相続前は遺言と生前移転で取得先を明確にする

まだ親が株式を保有しているなら、遺言で後継者へ取得させる方法や、生前に贈与又は売買する方法を検討します。何も決めず相続を迎えると、分割が終わるまで株式の権利行使も調整が必要になります。
後継者以外の家族には株式以外の財産も検討する
同じ株数を渡すことが、家族にとって最も公平とは限りません。後継者には経営権と事業上の責任、他の家族には預金や不動産などを配分する案を比較します。
ただし株価が高く預金が少ないと、他の家族への支払いや相続税の資金が不足します。親の生活資金も確保しながら、残せる財産全体で調整してください。
株式を移す税金と遺留分を別に調べる
生前贈与には贈与税、売買には譲渡所得税等が関わり、親子間の価格が著しく低い場合には別の課税も問題になります。株主名簿の書換えだけを先に済ませないでください。
遺言を作成しても遺留分の請求が当然になくなるわけではありません。税制上の猶予を利用できても、家族への金銭支払いを免れる制度ではない点も区別します。
種類株式や売渡請求は目的と費用から選ぶ

議決権制限株式などの種類株式は、経営の意思決定と財産の分配を調整する方法になり得ます。一方、既存株主の権利を変えるため、必要な決議や同意、税務を事前に確認する必要があります。
議決権がない株式でも財産上の権利は残る
後継者以外へ議決権を制限した株式を渡す案でも、配当や残余財産の権利、売却のしやすさ等を説明します。議決権がないから相続税評価も遺留分も必ずゼロになるわけではありません。
後継者の経営を安定させる目的と、他の家族が受け取る経済的利益を整理し、定款と契約でどこまで実現できるかを確認します。
既に分散した株式は買取価格と資金を確認する
分散後は株主との任意の売買や会社による自己株式取得などを検討します。相手の同意が必要な方法や会社法上の手続き、分配可能額、みなし配当等の税務があるため、強制的に集められるとは限りません。
相続人等への株式の売渡請求について定款に定める制度もありますが、行使できる条件や期限、買取資金が必要です。定款に一文を入れれば資金不要で解決する制度ではありません。
民法特例は全員の合意と公的な確認や許可を必要とする

経営承継円滑化法の民法特例では、後継者へ贈与等された株式について、遺留分の計算から除外する合意や、計算に用いる価額を固定する合意を行うことができます。
除外合意と固定合意は効き方が異なる
| 方法 | 遺留分の計算での扱い |
|---|---|
| 除外合意 | 対象株式の価額を算定の基礎財産へ算入しない |
| 固定合意 | 対象株式の価額を合意時の相当な価額で固定 |
固定するのは遺留分の算定に使う価額です。相続税評価額や将来の売買価格まで同じ金額に固定する制度ではありません。固定合意では所定の専門家の証明も必要になります。
後継者だけで決められる手続きではない
後継者と遺留分権利者全員の合意等に加え、経済産業大臣の確認と家庭裁判所の許可が必要です。対象会社や後継者等の要件、申請期限もあるため、合意書だけを家族で作って完了とはできません。
後継者が株式を処分する等の場合の措置や、非後継者との衡平を図る合意も検討します。誰かに不利益を隠して署名を求めず、対象財産と将来の効果を共有してください。
家族へ残す財産と会社の継続費用を一緒に試算する

最初に作る資料は、現在の株主構成、承継後の議決権、株式以外の財産、想定する税金と家族への支払いの一覧です。必要な現金を確かめると、贈与と相続や買取を比較できます。
会社法と相続法と税務を同じ前提で相談する
弁護士には遺留分と議決権や定款、税理士には株価と税額、金融機関には買取や納税の資金を相談します。それぞれへ異なる株数や価格を伝えないよう、共通の資料を用意してください。
まだ分散していないなら、まず後継者の意思を確認し、株主名簿と定款を取り寄せます。既に分散しているなら、誰から何株を取得するかと、その費用を調べるところから始めます。
後継者以外の家族の希望を聞くときは、相続の家族会議の進め方も確認してください。先に全員の希望を知ると、株式以外で調整できる財産を考えやすくなります。
よくある質問

社長を子へ交代すれば経営権も引き継げますか
役職と株式の議決権は別です。株主構成や定款の決議要件を確認し、後継者が必要な意思決定をできる状態か調べます。
遺言で株式を全部渡せば遺留分も解決しますか
当然には解決しません。他の家族の遺留分と支払資金を別に検討し、要件を満たす場合は民法特例の合意等も確認します。
固定合意で相続税評価も固定できますか
固定するのは遺留分の算定に使う対象株式の価額です。相続税評価額や売買価格まで固定するものではありません。