自社株を家族信託で承継するには 議決権と受益権を分ける設計

自社株の家族信託では、株式を管理する権限と、配当などの利益を受ける権利を分ける設計ができます。
経営者の判断能力が低下したときも、あらかじめ定めた管理を続けやすくする方法です。
ただし、株式を信託するだけで相続税が減る制度ではありません。
誰が議決権を行使するか、誰が利益を受けるか、会社の承認や税務をどう扱うかを、契約と会社の仕組みに合わせて決めます。
- 自社株の管理と利益を受ける権利の分け方がわかる
- 定款や譲渡承認と信託契約を併せて確認できる
- 受益権の税金と契約の終了リスクを整理できる
自社株の家族信託は株式を管理する人と利益を受ける人を分ける

経営者と後継者を信託の役割へ当てはめる
例として、父が持つ自社株を、後継者である子が受託者として管理し、父は受益者として配当等の利益を受ける形が考えられます。
父は財産を託す委託者でもあります。
株式の名義と管理を担う人、利益を受ける人を分けて考えるのが出発点です。
子を会社の代表者にすることと、父の保有株の議決権を誰が行使するかも、別々に確認します。
議決権の扱いは契約内容に左右される
信託後は、受託者が株主として議決権を行使することを基本に、委託者や受益者の意向をどのように反映するかを契約で設計します。
指図権等を定める場合も、実行できる仕組みにする必要があります。
父が生きている間は経営判断に関与したいのか、すぐに子へ任せたいのかを決めずに契約すると、名義だけ変えて権限が曖昧な状態になりかねません。
何のために株式を信託するかを先に決める

認知症への備えと生前の経営権移転を区別する
父の認知症に備えることが目的なら、判断能力が保たれている間に、何をどこまで子に任せるかを検討します。
すでに契約内容を理解できない状態では、家族の合意だけで本人の信託を設定することはできません。
本人の能力の確認は認知症の親の贈与と財産管理とも共通する問題です。節税の仕組みを探す前に、父が決められる時期と会社が止まるリスクを整理します。
遺言や贈与との役割の違い
遺言は死亡後の財産の承継を指定する手段です。生前贈与は財産を子へ移す方法ですが、贈与税や経営者の生活資金などの確認が必要になります。
家族信託は、それらの手段がすべて不要になる仕組みではありません。
家族信託が向かない場合と遺言や成年後見との違いも踏まえ、今解決したい問題から使い分けます。
譲渡制限と会社の機関設計に合わせて契約する

株式移転の承認と株主名簿を確認する
中小企業の株式には譲渡制限が付いている場合が多く、信託による株式移転でも、定款等に従い会社の承認が問題になります。
株主名簿の書換えや、株券発行会社の場合の株券の扱いなども確認します。
信託契約書だけを作って、会社側の手続きを残したままにしないでください。株式の種類、保有割合、株主総会や取締役会の構成を見ながら、必要な承認を決めます。
受託者の権限と後任や終了条件を決める
受託者が病気や死亡等で役割を担えなくなったときの後任、重要な議案の判断方法、情報共有の方法、信託を終える条件を定めます。
後継者一人がすべてを担うことの負担も考慮します。
受託者が受益権の全部を自分の固有財産として持つ状態が1年間続くと、信託法163条の終了事由に当たります。
契約を作れば何世代も必ず続くとは考えず、受益者の交代や終了後の株式の帰属まで確認します。
受益権の移転には贈与税や相続税の確認が必要になる

信託しただけで自社株評価が下がるわけではない
父が受益者のまま株式管理を子へ託す場合と、子へ受益権自体を渡す場合では、税務上の扱いが異なります。
受益者が変われば、贈与税や相続税の確認が必要になります。
管理する権限を子へ移すことと、税務上財産を取得したと扱われることを区別してください。自社株の評価額が高ければ、受益権を移す時期の検討も欠かせません。
事業承継税制との併用可否は別途確認する
株式を信託したことだけを理由に、自社株の評価額が自動的に下がるものではありません。
事業承継税制の納税猶予も、直接取得する株式と同じ条件で使えるとは限らず、制度の対象を個別に確認する必要があります。
会社の株式承継だけでなく、父の他の遺産、ほかの子の遺留分、配当による生活資金も含めて試算します。
経営権をまとめた結果、税金や家族間の調整で会社が再び不安定にならない設計が必要です。
家族と会社の双方が動く設計を専門家と点検する

遺留分や受託者と受益者の一致を確認する
受益権を家族に分けても、遺留分の問題が当然に解決するわけではありません。また、誰の合意で信託を変更・終了できるかは、法律と契約の両方を点検します。
父の死亡後に、受託者や受益者、委託者の地位を持つ人の意向が食い違う場合も想定してください。
父の希望だけでなく、実際に運用する人が理解できる取り決めにすることが大切です。
定款と株主名簿と株価資料を用意する
相談には、定款、法人の登記事項証明書、株主名簿、直近の決算書、自社株評価の資料、父の財産一覧と家族関係を用意します。
まず経営権と利益を誰へいつ渡したいかを一枚に書き出します。
信託契約を先にひな形へ当てはめるのではなく、その希望が会社法上も税務上も実行できるかを専門家と照合してください。
役割と期限が決まれば、契約へ記載すべき条件も具体的になります。
よくある質問

自社株を家族信託すると相続税は下がりますか
信託するだけで評価額や相続税が下がるものではありません。受益権の移転時期と取得者、株式評価などを別に確認します。
信託契約があれば会社の譲渡承認は不要ですか
不要とは限りません。譲渡制限株式の移転に必要な承認等を定款と会社法に従って確認する必要があります。
後継者が受託者なら議決権を自由に使えますか
信託目的や契約、受託者の義務に従って行使します。株式の管理権限を持つことと、自分のために自由に処分できることは同じではありません。