遺言作成時の能力を相続後に確かめる 医療・介護記録の集め方

この記事は、相続開始後に、作成済みの遺言について当時の能力を確かめたい家族を対象にしています。認知症の診断があったというだけで、遺言が必ず無効になるとは限りません。確かめるのは、遺言を作った時点で、その内容を理解して意思を決める能力があったかです。
作成日前後の医療、介護、本人の説明、財産と家族の状況を一つの時系列へ並べます。自分に都合のよい記録だけを抜き出さず、判断に必要な事実と不足資料を整理しましょう。
- 診断日と遺言作成日を分けて記録する
- 遺言の内容と理解の程度を具体的な資料へ結び付ける
- 医療記録の開示条件とほかの相続期限を並行して確認する
診断名と遺言した時点の理解を分ける

民法963条は、遺言者が遺言をする時にその能力を有することを求めています。亡くなった直前に会話できなかったとしても、それだけで数年前の作成時の状態が確定するわけではありません。
逆に、氏名を書けた、日常の挨拶ができたという事実だけで、財産の渡し方を理解できていたとも即断できません。何を尋ね、本人がどのように答えたかを具体的に記録します。
認知機能検査の点数も資料の一つです。特定の点数以上なら必ず有効、未満なら必ず無効という一律の境目を作らず、検査の日時や状況と遺言の内容を合わせて専門家へ示してください。
財産と家族と配分の理解を遺言の複雑さと照合する

能力を検討する際は、本人の健康状態だけでなく、理解すべき遺言がどのような内容かも整理します。財産を誰へどの範囲で渡し、その結果家族にどのような影響があるかという事項です。
例えば自宅一つを一人へ残す内容と、複数の不動産や会社株式を条件付きで分ける内容では、確認する事項が異なります。ただし単純な文面なら必ず有効という意味ではありません。
本人の発言として「長男に任せる」とあっても、介護の連絡を任せる話か、全財産を渡す話かを区別します。記録に書かれた場面と対象を確認することが必要です。
作成日前後の医療と介護と連絡を時系列に置く

以下は、父が6月に診断を受け、9月に遺言を作り、翌年に亡くなった架空例です。この表から有効・無効を決めるのではなく、どの時点の何を確認するかを示します。
| 時点 | 記録の例 | 確認したいこと |
|---|---|---|
| 6月の診断 | 診断書と受診記録 | 診断名、症状、根拠。9月と同じ状態と推測しない |
| 7月の検査 | 認知機能検査と診療録 | 点数だけでなく回答や検査条件 |
| 9月の作成前後 | 本人の説明、作成打合せ、立会記録 | 財産・家族・配分の結果を何と理解したか |
| 10月の入院 | 診療・看護・服薬の記録 | 状態変化の時点と、9月との関係 |
| 翌年の死亡前 | 終末期の記録 | 9月の能力をそのまま置き換える資料ではない |
各行には、記録を作った人、作成日、原本の保管先も添えます。家族の後日の記憶ならその旨を記し、当日書かれた医療記録と同じ種類の証拠として混ぜないようにします。
「本人が財産を説明した」という記録と「説明を理解していなかった」という記録が両方あれば、両方を残します。前後の事情を落とさず弁護士と医師へ見せることが、検討の精度につながります。
記録の開示と保存を適法な手順で依頼する

診療録や介護記録の開示は、各機関の窓口へ、請求人の資格、必要書類、対象期間、保存状況を確認します。相続人と名乗れば、直ちにすべての記録を自由に受け取れるという手続きではありません。
厚生労働省の指針では、遺族への情報提供に関する定めがあります。請求できる範囲や第三者の利益等による制限も関係するため、戸籍等で請求資格を示し、各機関の案内に沿って依頼してください。
必要な記録の期間を特定できないときは、作成日を中心にどこまで集めるかを弁護士へ相談します。取得していない資料、保存されていない資料、取得したが記載がない資料を分けておくことも大切です。
有効無効の断定より争点と不足資料を相談する

公正証書で作成されていても、作成時の能力が一切争えないわけではありません。公証人の確認は重要な事情ですが、医療や生活の記録、遺言の内容、作成の経緯等を合わせて検討します。
録画がある場合も、誘導する質問だけか、本人が自由に説明する場面があるかなど、記録全体を確認します。都合のよい短い部分だけへ編集したり、事実と違う説明を補ったりしないでください。
相談には、時系列表、遺言の写し、裏付け資料、不足資料の一覧を用意します。能力の争いと遺留分の請求、相続税等の期限は別に管理し、記録収集中という理由だけでほかの対応を止めないようにします。
これから遺言を作る本人や家族の備えは、遺言作成前に診断書や記録を準備する方法で確認できます。作成前に記録を残す工程と、相続後に既存の記録を取り寄せる工程を分けて考えてください。
よくある質問

認知症と診断されていれば遺言は必ず無効ですか
診断名だけでは決まりません。遺言をした時点の能力を、具体的な内容と医療・生活・作成経緯の資料から検討します。
認知機能検査の点数だけで判断できますか
一律の点数で有効・無効を断定しません。検査日、症状、本人の説明、遺言の複雑さ等を合わせて確認します。
公正証書遺言なら能力は争えませんか
公正証書でも能力が一切争えないわけではありません。公証人の確認を含む複数の資料と作成時の事情を整理して相談します。