診療所の開設者が亡くなったら 死亡届と継続診療の準備

個人で診療所を開設していた家族が亡くなると、患者への対応と、短い期限の行政手続きが重なります。まず必要なのは、診療所の開設者死亡届を10日以内に出すための準備です。
同じ施設で診療を続けたい場合にも、家族が財産を相続するだけで開設者の地位や保険診療の指定が移るわけではありません。死亡を届ける資料、新たに開設する人の資料、診療録の保管を順に分けて整理します。
- 個人開設者の死亡後10日に必要な届出と添付の例
- 新しい開設者の準備と保険診療の指定の相談
- 診療録の義務者と保管先を分けて考える方法
個人の開設者死亡と法人の代表者変更を分ける

最初に、開設届出済証や許可書の「開設者」を見ます。父が院長と呼ばれていても、開設者が父個人なのか医療法人なのかで、死亡後の手続きは異なります。
個人開設なら、父の死亡についての届出と、次の開設者による診療所の手続きを並行して進めます。建物や医療機器を相続することと、開設者の地位や保険医療機関の指定を受け継ぐことは別です。
| 手元の資料 | 拾う項目 | その項目から決める相談先 |
|---|---|---|
| 開設届出済証・許可書 | 開設者名、所在地、有床・無床 | 所在地を管轄する保健所に個人開設者死亡として相談 |
| 法人登記事項証明書等 | 開設者が法人か、父の役職 | 法人開設なら代表者・管理者等の変更として相談 |
| 死亡を示す公的資料 | 開設者の氏名と死亡日 | 死亡届の期限、添付の種類を照合 |
ここからは、父が個人で開設していた診療所を、家族が整理する場合を扱います。法人の理事長だけが亡くなったケースに、そのまま当てはめないでください。
死亡後10日の届出に死亡事実と開設資料を添える

医療法9条2項は、開設者が死亡したとき、戸籍法上の死亡届出義務者が10日以内にその旨を届け出ると定めています。誰が遺産を取得するか決まっていなくても、この届出の期限は進みます。
札幌市では、開設者死亡届に、死亡が分かる戸籍謄本等の公的書類と開設届出済証の原本を添えます。オンライン申請の場合でも済証の原本は後日提出し、死亡から10日を過ぎた場合は遅延理由書が必要です。
ただし、様式名や部数、原本の扱いまで全国共通とは限りません。船橋市は死亡に伴う廃止を開設者死亡届によるものとし、死亡診断書又は戸籍謄本・抄本を案内しています。死亡届に加えて同じ内容の廃止届を必ず重ねて出す、と決めず、所在地の案内に合わせます。
窓口へは「個人開設者が何月何日に死亡した」「開設届出済証がある/見当たらない」「診療の継続を検討中」の三点を伝えます。書類不足や期限超過があっても放置せず、不足分の提出方法と遅れた場合の扱いを相談してください。
新しい開設者と診療体制を保健所へ示す

例えば、医師である長女が同じ建物で診療を続けたい場合を考えます。父の氏名を長女へ書き換えるだけで済むと考えず、長女を開設者とする手続きと開始予定日を保健所へ示します。
| 継続に向けた資料 | 相談する内容 | まだ決めつけないこと |
|---|---|---|
| 長女の医師免許・該当する研修修了登録の資料 | 資格の確認、原本照合、管理者 | 父の資格資料で代用できるとは考えない |
| 施設の平面図・病床等の資料 | 新規開設や構造設備の手続きが必要か | 同じ建物なら審査不要とは考えない |
| 所有・賃貸借等の資料 | 新開設者が施設を使用できる根拠 | 相続人の一人なら全設備を自由に使えるとは考えない |
船橋市も、開設者変更に新規開設の手続きが必要となる可能性を示し、事前連絡を求めています。有床施設や、医師本人による個人開設とは異なる形を計画する場合は、許可の要否や着手できる時点も先に確認します。
保険医療機関と医籍の手続きを別の提出先へ分ける
保健所の死亡届で、保険医療機関の廃止・新たな指定、保険医本人の死亡届まで完了するわけではありません。神奈川県医師会の一覧では、保険医療機関廃止届と保険医死亡届を厚生局へ、医籍登録抹消申請を保健所へ出す形で分けています。医籍抹消は死亡後30日以内の案内です。
保険診療を途切れさせず続けたいときは、管轄の地方厚生局にも早期に相談します。2026年9月からの関東信越厚生局の取扱いでは、個人の開設者の死亡等により血族や勤務する保険医等が新たな開設者となり、職員と診療録等を引き継いで診療を継続し、緊急に申請する場合は遡及指定の類型1に当たります。
これは指定日を遡らせる申請の枠組みで、家族が希望すれば自動的に認められる制度ではありません。旧機関の廃止、新機関の指定、施設基準等の提出をどの日程で進めるか、厚生局の判断と案内を確かめてください。
診療録と患者への連絡を閉院後まで管理する

診療を続けるか閉じるかが決まる前に、紙の診療録や電子カルテを家財と一緒に処分しないよう、職員やシステム会社と保管場所を共有します。電子契約の解約によって過去の記録を読めなくしないことも、先に確かめる点です。
医師法上の診療録には5年の保存義務がありますが、個人開業医の死亡時は義務者の区別が必要です。厚生労働省に掲載された疑義回答は、戸籍法上の死亡届出義務者が診療録保存義務を承継するものではないとしています。遺族全員に当然その義務が移る、と説明することはできません。
そのうえで、継続診療や患者からの照会に備え、管理者・保管先・連絡窓口を保健所や関与する医師と相談します。保管の一覧として「紙/電子の種類、対象年、現在地、閲覧できる担当者、移管先、患者の問い合わせ先」を一覧にすると、返却や保存の判断を引き継ぎやすくなります。
保存場所を外部へ移す場合も、必要なときに利用できる体制、情報保護、責任の所在を整える必要があります。記録の種類によって保存の根拠や期間は異なるため、全資料を一律5年で廃棄する扱いにしないでください。
患者への案内には、休診・閉院や継続の予定と、診療情報について問い合わせられる窓口を分けて示します。診療内容の説明や記録の提供は、家族だけで判断せず、対応する医師と情報の取扱いを決めます。
預金や施設以外の遺産を探す作業は、親の財産の調べ方 預貯金や不動産の照会先と必要書類も参考にしてください。診療所の届出とは別の一覧にすると、短い期限の手続きを追いやすくなります。
手元の資料と未確認の点を整理して相談する際は、相続サポートの相談窓口をご覧ください。
よくある質問

診療所を継ぐ人が決まるまで死亡届を待てますか
個人の開設者が死亡した場合は、戸籍法上の死亡届出義務者が10日以内に届け出る必要があります。遺産分割や後継者の決定を待たず、所在地の保健所へ連絡してください。
医師である子なら同じ診療所をそのまま続けられますか
資格があっても父の開設手続きや保険医療機関の指定が自動で移るわけではありません。新しい開設者の手続きと保険診療の指定を、保健所と厚生局へそれぞれ相談します。
死亡届を出す家族がカルテの保存義務も引き継ぎますか
厚生労働省掲載の疑義回答では、戸籍法上の死亡届出義務者は診療録保存義務を承継しないとされています。ただし記録を直ちに処分せず、管理者や保管先、患者からの照会窓口を保健所等と相談してください。