小規模宅地等の特例と老人ホーム 実家の適用条件と申告書類

親が老人ホームへ入居し、実家が空き家のまま相続を迎えても、小規模宅地等の特例を使える場合があります。亡くなった日に親が自宅に住んでいなかったという理由だけで、対象外になるわけではありません。
確認するのは、親の介護認定、入居先の施設の種類、入居後の実家の使い方です。その三つを満たしても、土地を相続する子の条件は別に残ります。
施設の契約書と介護保険の資料を取り出し、親が実家を離れてから相続までの出来事を整理すると、判断に必要な情報が見えてきます。
- 施設に入居した親の実家でも、認定・施設・家の利用状況によって特例の対象になる
- 入居後の実家へ子が住む場合や人へ貸す場合は、使い方を変える前に条件を確認する
- 介護認定と施設契約の資料を保存し、土地を取得する人の条件と合わせて申告する
老人ホームへ入居しても実家の土地が特例の対象になる場合がある

自宅の土地に使う小規模宅地等の特例では、相続直前に誰がその土地を居住用として使っていたかを確認します。ただし、一定の施設への入居で住めなくなった場合には、入居前の自宅を対象に含める扱いがあります。
親が実家を離れた理由と入居後の利用を確認する
国税庁は、要介護認定を受けた人が特別養護老人ホームへ入所し、元の自宅が相続直前まで空き家だったケースについて、居住用の土地に該当すると回答しています。
一度も自宅へ戻らず施設で暮らしていた場合でも、この扱いを検討できます。「自宅へ帰る予定がなかったから必ず使えない」と、以前の制度の説明を現在の相続に当てはめないでください。
反対に、昔住んでいた家ならすべて対象になるわけでもありません。施設入居前にどこを生活の拠点にしていたか、実家を離れた後に誰が使ったかを確かめる必要があります。
80%は土地の評価額を減らす割合
特定居住用宅地等の条件を満たすと、330㎡までの部分について、相続税の計算へ入れる土地の評価額を80%減額できます。建物や預貯金まで80%減るわけではありません。
例えば、対象面積250㎡の土地が、特例適用前の相続税評価額4,000万円なら、全体に適用できる場合の評価額は800万円です。これは土地の計算例で、相続税額そのものの計算ではありません。
実家の条件を満たすかと、取得する人の条件を満たすかは分けて確認します。施設の契約書だけで特例が確定するわけではないため、まず実家側の三つの条件から見ていきます。
介護認定と施設の種類は相続直前の状況で確認する

施設へ入った日の状況だけを見ると、判断を誤ることがあります。介護認定を確認する時点と、施設の種類を確認する資料を分けて整理してください。
入居時ではなく亡くなる直前の認定が基準
要介護認定や要支援認定などを受けていたかは、相続開始の直前で判定します。施設へ入居する前から認定されていることが、必ず必要というわけではありません。
例えば、自立していた時期に対象施設へ入り、その後に要支援認定を受け、相続直前にも認定があった場合です。入居時に認定がなかったという理由だけで、実家を対象外とは判断しません。
認定の種類と有効期間は、介護保険の被保険者証や認定通知で確認します。死亡後に証書を返還することもあるため、手元にあるうちに写しを保存しておきます。
認定の申請中に亡くなった場合はその後の結果を確認する
生前に要介護認定等を申請し、結果が出る前に親が亡くなることもあります。国税庁は、生前の心身状況の調査を経て相続開始後に認定されたケースについて、相続直前に認定を受けていた者として扱えるとしています。
認定の効力が申請日にさかのぼるためです。ただし、申請書を出しただけで認定済みと同じ扱いになるという意味ではありません。
申請日、調査日、認定結果と効力の発生日が分かる資料を確認します。結果の通知が届いていない場合は、市区町村へ手続きの状況を問い合わせ、申告を担当する税理士にも経緯を伝えてください。
施設の広告名より法令上の区分を確認する
「高齢者向け」「シニア向け」という名称だけでは、対象施設か判断できません。契約書や施設の説明資料から、国税庁が挙げる法律上の施設・住居の区分に当たるかを調べます。
| 確認する認定等 | 法令に定められた対象施設等 |
|---|---|
| 要介護認定・要支援認定等 | 養護老人ホーム、特別養護老人ホーム、軽費老人ホーム、有料老人ホーム、認知症対応型老人共同生活援助事業の住居 |
| 要介護認定・要支援認定等 | 介護老人保健施設、介護医療院、法令上のサービス付き高齢者向け住宅 |
| 障害支援区分の認定 | 一定の障害者支援施設、共同生活援助を行う住居 |
サービス付き高齢者向け住宅は、法令上の登録があるかも確認します。単なる高齢者向け賃貸住宅を、名称が似ているからという理由で同じ区分に入れないでください。
施設を移った親は、最後の施設の資料だけでなく、転居前後の契約書も保存します。どの施設からどこへ移り、実家をいつ離れたかが分かる形にすると、生活の経緯を説明しやすくなります。
入居後の実家を誰がどう使ったかで適用が変わる

認定と施設の条件がそろったら、実家の使い方を確認します。空き家のままか、親族が住んだか、人に貸したかによって、居住用として検討できる範囲が変わります。
空き家のまま維持した場合は取得者の条件へ進む
対象施設へ移った後、実家を空き家のまま維持していた場合は、居住用の土地として検討できます。庭の手入れや建物の管理を子がしていることと、子がそこへ住んでいることは別です。
空き家だから特例がないというわけではありませんが、空き家だから特例が確定するわけでもありません。土地を誰が取得するかについて、後の章の条件を確認します。
親族が住む場合は入居した時期と生計の関係が重要
親が施設へ移る前から生活費を共通にしていた親族が、そのまま実家に住み続ける場合は、利用制限の判定で考慮されます。親の施設入居をきっかけに生活費を分けたからといって、直ちに対象外になるわけではありません。
国税庁は、施設へ入る直前に親と生計を一にし、かつ実家へ引き続き住む親族を、認められる居住者の範囲に含めています。入居前の関係と居住の継続を確認する条件です。
親の入居後に、親と生計を一にする親族が新たに住んだ場合も、検討の余地があります。一方、親と生計が別の親族が新たに住む場合は、元の実家を親の居住用として扱う条件を外れます。
「子が住むなら同じ」という扱いにはできません。生活費や住居費を誰が負担していたか、いつから実家に住んだかを資料で確認します。
| 施設入居後の実家の状態 | 居住用として検討するときの注意 |
|---|---|
| 空き家のまま | 認定・施設と取得者の条件を確認する |
| 入居直前に生計を一にしていた親族が引き続き住む | 入居前の生計と居住の継続を確認する |
| 生計を一にする親族が新たに住む | 相続直前の生活費の関係と取得者の条件を確認する |
| 生計が別の親族が新たに住む | 元の実家を親の居住用として扱う条件を外れる |
| 第三者へ賃貸する、事業用に使う | 居住用の80%減額とは別に検討する |
賃貸へ変えた場合は居住用の80%減額をそのまま使えない
施設入居後の実家を第三者へ貸した場合、特定居住用宅地等としての80%減額は使えません。貸付事業用宅地等の区分で、200㎡まで50%減額を検討する場合があります。
ただし、自動的に50%へ切り替わる制度ではありません。相続前3年以内に新たに貸し始めた土地の制限や、その例外、貸付事業の承継・継続、土地の保有などの条件があります。
新たな貸付が3年以内でも、親が相続開始日まで3年を超えて「特定貸付事業」を続け、その事業に使う土地なら、例外の対象を検討できます。
特定貸付事業は、事業と称するに至らない貸付を除く区分です。事業規模のほか、既存の貸付事業の継続期間も確認する必要があります。
入居費用を賄うために実家を貸す判断は、家賃収入や管理費と合わせて考える必要があります。特例だけのために空き家を維持すると決めず、用途を変える前に両方の税額を試算してください。
実家が対象でも土地を取得する人の条件は残る

実家を居住用の土地として扱えることと、相続する人が特例を使えることは別の判断です。土地の取得者が配偶者、同居していた親族、別居の子のどれに当たるかを確認します。
配偶者には取得者ごとの居住継続や保有継続の条件がない
亡くなった親の配偶者が土地を取得する場合、取得者ごとの居住継続や保有継続の条件はありません。夫婦とも施設へ入居していたケースでも、まず実家側の要件を確認します。
これは、どの土地でも配偶者なら無条件に使えるという意味ではありません。土地の対象要件、面積の上限、分割や申告の手続きは別に必要です。
配偶者が実家を取得する案では、土地の特例だけでなく、その後子へ引き継ぐ二次相続まで考えます。母が全額相続する場合と半分相続する場合の比較を、分け方を考える参考にしてください。
住み続けていた親族は申告期限までの居住と保有を確認する
親と暮らしていた親族が施設入居後も実家へ住み続け、その土地を相続する場合は、同居親族の区分などを確認します。該当する区分では、申告期限までの居住継続と土地の保有継続が必要です。
相続後すぐ転居する予定や、実家を売る予定がある人は、その予定を先に伝えてください。申告書を提出した日まで住めば足りるのではなく、申告期限までの条件です。
二世帯住宅や途中で生活費の関係が変わった場合は、建物の登記と生活の実態も関係します。同じ敷地で暮らしていたという説明だけで、同居の区分へ決めないようにします。
別居の子は家なき子か生計一親族の区分を確認する
親が一人暮らしから施設へ移り、空き家の実家を別居の子が取得する場合は、家なき子の条件を検討します。親に配偶者がいないことや同居相続人がいないこと、子の住まいの履歴などが関係します。
子が賃貸住宅に住んでいるだけで、家なき子に当たるとは決まりません。過去3年の家の所有者や、現在住む家を過去に自分で所有していたかも確認します。
親と生活費を共通にしていた子が住む土地なら、生計一親族の区分を検討する場合もあります。親の実家と子の住居が同じ土地かどうかを明らかにしてから、適用条件を当てはめます。
別居の子が実家を取得する場合の住所と所有履歴は、家なき子の適用条件と必要書類で確認できます。施設と実家の資料に、子の過去3年の住まいの記録も添えてください。
売却や取り壊しは相続前後の時期を分けて考える

実家を整理する際は、親の生前に行う作業と、子が相続した後に行う作業を分けます。相続時点の土地の状態と、取得者の継続条件は、別の時期の確認だからです。
生前の用途変更や取り壊しは対象となる土地に関わる
親が施設へ移った後、生前に実家を賃貸へ変えれば、居住用としての適用条件が変わります。住む人を変える場合も、いつから誰が住むのかを確認してから進めます。
建物を取り壊して更地にする場合は、相続直前に建物等の敷地としての条件を満たすかが問題になります。建替えなど別の事情もあるため、取り壊しの契約をする前に、日程と目的を税理士へ伝えてください。
施設費の支払いのために親が実家を生前売却したなら、相続するのはその土地ではなく売却代金などです。その代金に、居住用の土地の80%減額を当てはめることはできません。
相続後は取得者の居住と土地保有の条件が影響する
家なき子の区分では、相続税の申告期限まで土地を保有する必要があります。相続した実家へ住む義務はありませんが、期限前に土地の所有権を移すと保有条件を満たせなくなります。
同居親族などの区分では、居住の継続も必要です。空き家の整理だから解体してよい、と一律には判断できません。取得者の区分に照らして、解体・転居・引渡しの日程を確認します。
売買契約日と引渡日が違う場合には、実際にいつ所有権が移るのかも確かめます。契約の締結だけで適用の可否を決めず、申告期限と契約内容を並べて検討してください。
売却時の空き家特例は別の税金の制度
相続した空き家を売る際の特別控除は、売却益に対する所得税の制度です。今回の小規模宅地等の特例は、相続税を計算する土地の評価額に関する制度です。
対象となる建物や時期、施設入居の扱いなどの確認点も同じではありません。小規模宅地等の特例を使えたから、売却時の控除も使えるとは判断しないでください。
施設の契約書と介護認定の資料を申告前に保存する

適用条件を説明するために、施設の資料と実家の利用状況を示す資料をそろえます。書類を集めるだけでなく、入居・認定・用途変更の日付を一つの表へまとめると確認が進みます。
施設と実家の両方の資料を準備する
| 確認事項 | 保存・準備する資料の例 |
|---|---|
| 認定の種類と有効期間 | 介護保険の被保険者証の写し、認定通知、該当する障害福祉サービスの資料 |
| 申請中だった場合の経緯 | 申請日・調査日・後日認定と効力が確認できる資料 |
| 施設の名称・所在地・法定区分 | 施設入所契約書の写し、施設区分を明らかにする資料 |
| 親の住所の履歴 | 相続開始日以後に作成された親の戸籍の附票の写しなど |
| 実家へ誰がいつから住んだか | 住所の資料、光熱費の記録、生活費の負担や送金が分かる資料 |
| 土地の取得者と分割内容 | 遺言書、遺産分割協議書、必要な印鑑証明書など |
介護保険証や施設契約の資料は、施設入居による扱いを確認するために使います。実際の添付書類は、最新年度の相続税申告の手引と提出方法に照合してください。
家の管理をきょうだいで分担していたなら、誰が住んでいたか、賃貸契約をしたことがあるかを聞き取ります。税理士へ依頼する場合も、家族しか知らない利用履歴は先に共有する必要があります。
特例で税額がゼロになる場合も相続税申告が必要
小規模宅地等の特例は、申告書へ適用する旨を記載し、一定の書類を添付して使う制度です。特例を使った結果、納める相続税がゼロになっても申告は必要です。
申告期限は、親の死亡を知った日の翌日から10か月以内です。遺産分割が決まらない場合でも、申告や納税の期限が自動的に延びるわけではありません。
対象の土地が未分割なら、特例を使わない申告と、分割後の更正の請求などを検討します。申告時に必要な対応があるため、話し合いが終わるまで税務の相談を先送りしないでください。
土地以外の財産も確認してから税額を見積もる
実家の土地に特例を使えるかは、相続税の計算の一部です。施設費を払っていた預金、株式、保険、借金なども確認して、財産全体で税額を試算します。
親の財産がまだ把握できていない場合は、親の財産の調べ方と照会先で、金融機関や不動産の調査に必要な資料を確認できます。
最初の作業は、介護保険の資料の写しと施設契約書を手元に残すことです。そこへ「実家を離れた日・認定日・家の利用が変わった日」を書き添えると、適用を判断するための相談資料になります。
老人ホームと小規模宅地等の特例に関するよくある質問

老人ホームへ入居した時に介護認定がなくても対象になりますか
対象になる場合があります。認定の有無は原則として相続開始の直前で判定するため、入居後に認定を受けた場合も、施設や実家の利用状況などの条件を確認します。
住民票を老人ホームへ移すと特例が使えなくなりますか
住民票を移したことだけで対象外になるわけではありません。介護認定、法令上の施設区分、入居前後の生活と実家の利用状況、取得者の条件から判断します。
実家が空き家のままなら子が相続しても自動的に使えますか
自動的には使えません。実家側の認定・施設・利用の条件に加え、土地を相続する子の家なき子などの条件と、申告の手続きが必要です。
本記事は2026年10月12日に確認した国税庁の公表資料をもとにした一般的な説明です。個別の適用は、認定と施設の資料、実家の利用履歴、取得者と分割の状況を確認して判断します。